Special | 2015.10.27
【前編】なぜAppleはHermèsを選んだのか?Apple Watch Hermèsで占うファッションとデジタルテクノロジーの関係性

【前編】なぜAppleはHermèsを選んだのか?Apple Watch Hermèsで占うファッションとデジタルテクノロジーの関係性

大きな反響を呼んだ「Apple Watch」の発表からちょうど1年となる9月9日に、Apple Watchの新製品として「Hermès(エルメス)」とコラボレーションしたモデルが発表されました。10月5日から既に販売がスタートしているこの「Apple Watch Hermès」は、その名称にAppleと並びHermèsの名が入っているのはもちろんのこと、文字盤から自社のロゴを除き、パッケージにも専用のデザインを採用するという、Apple製品としては異例づくしの内容。Apple Watchをファッション・アクセサリーとしてアピールしていこうという、Appleの強い意志を感じさせる製品となっています。

しかしAppleのこれまでの製品では考えられないようなコラボレーションによる変更が加えられているとはいえ、その実体は、文字盤のスクリーンのデザインをHermès仕様に組み直し、Hermèsの時計の特徴的なバンドをApple Watchが機能するような形にカスタマイズして付けたもので、あくまで既存のApple Watchがベース。

極端な言い方をすれば、文字盤とバンドの「着せ替え」がこのApple Watch Hermèsの最も大きな特徴であり、そうした意味ではiPhoneやiPad向けに様々なファッションブランドが提供している、ケースやスリーヴとそれ程大きな違いはないような印象も受けます。

Apple Watch Hermes
二重バンドの「ドゥブルトゥール」は4色展開。
Apple Watch Hermes
こちらは一重バンドの「シンプルトゥール」の「ドゥー・バレニア(フォーヴ)」カラー。Apple Watch Hermèsのみにインスト―ルされている文字盤はエルメスのウォッチシリーズの文字盤を模した「クリッパー」「ケープコッド」「エスパス」の3デザインを切り替えられるようになっている。

Apple Storeなどの店頭でガラスケース越しに見ると、一番廉価な「シンプルトゥール(Simple tour)」モデルはぱっと見たところでは、通常のApple Watchのレザーバンドのモデルと大きな差を感じられず、やはり「ドゥブルトゥール(Double tour)」や「カフ(Cuff)」といったわかりやすい特徴のあるバンドでこそ、今回のコラボレーションが映えるのは事実ではないでしょうか。

Apple Watchという製品、あるいはスマートウォッチというジャンルそのものが、まだ発展登場である現段階で、こうしたビッグネームを冠した製品が出てきたこと自体も驚きではあるのですが、今回のコラボレーションの背景や、ファッションが今後デジタルテクノロジーを取り入れていくうえでどういった課題を示唆しているかについて、少し考えてみたいと思います。

Apple Watchが抱える課題とAppleのファッション戦略

まずApple Watchが抱えていた最も大きな課題は、“時計でありながらガジェットでもある”というスマートウォッチのジャンル自体が持つギークなイメージの強さです。iPodやiPhoneを、他のMP3プレイヤーやスマートフォンと一線を画す“ファッショナブル“なアイテムとして印象付けることに成功したAppleでも、まだApple Watchからそうしたイメージを取り除ききれずにいるのが実情です。そうしたイメージを緩和しファッションアイテムとしてのイメージへと転換していく上で、Apple Watch Hermèsの存在は大きいのではないでしょうか。

andersphoto / Shutterstock.com

またApple Watchのファッションアクセサリーとしての面を強調するのであれば、目まぐるしく変化していくファッションの世界のトレンドの動きと比較して、これまでのiPhoneのように2年おきのリニューアルと、1年おきのマイナーチェンジという製品のアップデートのサイクルは、いかに時計といえども単一の製品で引っ張るにはさすがに長過ぎるのでは、という懸念があったのではないでしょうか。今回のようなコラボレーションの形で、新しい製品のデザインと話題を提供していくということも、マーケティング的な観点から軽視できなかったのではと考えられます。

Apple Watchはその開発過程において、使い続けてもらうための装着感のリサーチに並々ならぬ力を注いだと思われるのですが、その端的なあらわれでもある“バンドの付け替え”が公認されない状況は、当面変わりそうにありません。これらを鑑みると、今後もある程度のサイクルで、Apple自身からこうしたファッションブランドとのコラボレーションが出てくる可能性は少なからずありそうです。

様々なデザインのトレンドを勘案しながら短いサイクルでアップデートしていくことは、必ずしもAppleの得意な分野ではありませんし、そのことは「The New York Times」のファッションディレクター 、ヴァネッサ・フリードマンの「Appleが初めて“自分たちよりファッションブランドの方がファッションを巧くファッションとして見せることができる”と認めた」という指摘のとおりに思えます。

But the most interesting thing about all this is less the product itself than the fact this is the first time Apple has admitted that fashion does fashion better than Apple can.

— The New York Times「Apple Plus Hermès: Smartwatch Dream Team or Weird Mash-Up?」 より

またApple Watchのローンチに至る過程で、バーバリーの前CEO アンジェラ・アーレンズやイヴ・サンローランでCEOを務めたポール・ドヌーヴら、ラグジュアリーブランドのマネジメント経験者を採用し、今回のHermèsのコラボレーションでは彼らが総動員されたという話からも、Appleも当初からこうした展開を想定していたことが伺えます。

【後編】なぜAppleはHermèsを選んだのか?Apple Watch Hermèsで占うファッションとデジタルテクノロジーの関係性に続く

Text : koso

DiFa編集部



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