Special | 2016.11.07
ランウェイがECのショーケースに?-ファッションブランドのSee Now Buy Now戦略が変えゆく“トレンド”概念

ランウェイがECのショーケースに?-ファッションブランドのSee Now Buy Now戦略が変えゆく“トレンド”概念

これまでのファッション界は、1年を大きく「春夏」と「秋冬」という2つのシーズンに分けてコレクションを発表するというシステムのもとでビジネスサイクルを維持してきました。それに合わせて各メディアが情報を丁寧に編集。コレクションの発表からおよそ1ヶ月以上のタイムラグを経て、ようやく消費者に伝えられるという仕組みが長い間たもたれてきました。

ところがネットの普及やオンラインメディア、そしてSNSの登場により、個々のファッショニスタが一般の消費者にダイレクトに情報を流し始めるようになったことで、そうした状況が変わりつつあります。

オンラインとの向き合い方に揺れるファッション業界

いわば“See Now Buy Later”が慣例だったファッション業界に、近年登場してきたのが“See Now Buy Now”という動き。商品を見てその場で買うという、他の分野ではあたり前の経済活動が、ファッション界において新たな常識となるのか、それともブームで終わるのか。今年2016年9月に世界各地で行われたショーは、まさにその実験の場と言えるようなものでした。

TOM FORDのコレクションはまるで“ECのためのショーケース”

TOM FORD(トム・フォード)」は、本来であれば2月に発表するはずの16年秋冬コレクションを2016年9月7日に発表。これまでは、コレクションからおよそ4ヶ月待ってやっとアイテムを手にすることができるという流れを、コレクションの翌8日には、日本を含む世界中のTOM FORDブティックやオンラインストアでコレクションアイテムを販売する、という実験的な展開へと大きく舵を切りました。

従来のファッションシステムを“時代遅れのファッションカレンダー”と切り捨て、コレクションの発表と同時に入手できるシステムこそが、本来の“Ready to Wear”の形であることを強調。

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Tom Ford-TOM FORD online storeより

コレクションはプライベートなディナーパーティー内で発表され、即時にライブ配信。加えて、ハリウッドセレブら招待客のSNSを通じてリアルタイムで全世界にその模様が伝えられました。エキゾチックな印象のレザーを使った数十万円のブラウスや百万円を超えるコートなど、前日に発表されたばかりのメインコレクションの売り上げは上々だったとのこと。

TOM FORDの今回のコレクションは、発表から購入までのタイムラグをなくすことにフォーカスしているものの、用意された52のルックは素材・カラーいずれの面でも「秋冬」を意識したかなり季節感のある内容でした。

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Tom Fordのインスタグラムショップ-Tom Ford Instagram Shopより

オンラインストアでフルラインナップが展開されたほか、2015年から懇意にしている「Net-a-Porter(ネッタポルテ)」でも一部のアイテムが用意されました。ショーに招待されたセレブが投稿した数々の写真から、TOM FORDのSNSアカウントを経由してECサイトに飛べるようになっていて、言うなればショーとECとが直結。実店舗やマスメディアを介さずに、発表されたばかりの商品を指先の動き一つで買えてしまう軽やかさやスピード感に、新しい時代の幕開けを見た気がします。

“季節”の概念も飛び越えたBURBERRYの「セプテンバー・コレクション」

以前からファッションシステムの改革を積極的に行ってきた「BURBERRY(バーバリー)」もまた、最新コレクションを、ショー終了直後にブティックおよびオンラインストアで販売しました。

TOM FORDと同様、発表した新商品をショー終了直後に販売するというスタイルの新しさもさることながら、BURBERRYが2016年9月19日に発表した「September Collection(セプテンバー・コレクション)」と題するコレクションの大きな特徴は、春夏・秋冬といったこれまで常識とされてきた“季節区分”を採用しなかったことにあります。

これまでのショーでは、特定の季節にのみ着用することを想定したうえで、デザインやコーディネートが綿密にプログラムされるのが常でした。ところが、ここへきて「春夏」とか、「秋冬」といった概念がもはや意味をなさなくなってきており、半袖のワンピースと厚手のコートとが同一ランウェイにおいて当たり前に共存するような、そんな自由な雰囲気が見て取れます。

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BUEBERRY オンラインショップ 16AW-BUEBERRYより

ショー終了直後に新作の販売を一斉に開始するという華麗な“See Now Buy Now”をやってのけたBURBERRYですが、こんな劇的な速さと親和性が高いのは、やはり実店舗よりもECのほう。今回のショーによってランウェイと小売りとの距離感を驚くほど縮めてみせたと同時に、EC自体が実店舗には決して真似できない「時間の優位性」を味方につけたと言えるでしょう。

ECにより変容するファッションの“臨場感”

いつの頃からか、“待たないこと”が現代人にとって当たり前になってきました。端末を使ったやり取りにはじまり、あらゆることがスピード感を持って対処されなくてはならず、ファッション界のこうした流れもまた、そうした人々の時間感覚にあわせて生じてきたものだと言えそうです。

ところが、ヨーロッパのラグジュアリーファッション業界はこうした動きには慎重で、かのカール・ラガーフェルド氏も「コレクションの発表から人々に届けるまでには相応の時間がかかるもの。そのプロセスがなければ終わり」と言っているように、“See Now Buy Now”の仕組みによって、失われるもの、ないがしろにされるものがある、という意見も少なくありません。

かつては、ショーや雑誌で見たアイテムを店舗に足を運んで実際に目にし、触って確かめる。そこでは素材や仕立てなど衣服にまつわることすべてが消費者にとって臨場感を与え、価値あるものとして考えられていました。ところが、それらのことはECの時代においては重視されません。むしろ“臨場感”をおぼえさせるのは同時性や即時性。リアルタイムにことが進んでいくことに価値がおかれる傾向にあります。

そもそも流行が時間と密接な関係にあることを前提とするなら、“See Now Buy Now”の流れはとても自然なことのように思えます。衣服をまとうことそのものよりも、ファッション性を重んじるという言い方ができるかもしれません。これまで「季節の装い」なんていう言葉でがんじがらめにされていたファッションが、暑さ・寒さから解放されていく。そして季節の概念が曖昧になるだけなく、ファッションはもっと自由な方へと向かうことでしょう。

2016年のTOM FORDやBURBBERYによるショーは、そんなファッションECが向かう先を華々しく示していた、なんてことになるかもしれませんね。

TOM FORD

tomford.com

BURBBERY

burberry.com

Cover Photo by shutterstock.com

◆こちらは「FASHION EC Lab」 編集部からの寄稿記事です。

FASHION EC Lab



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