Business | 2016.12.21
AIが洋服を「デザイン」すればECの未来が変わる?-Zalando×Googleによる実験的な取り組み「Project Muze」

AIが洋服を「デザイン」すればECの未来が変わる?-Zalando×Googleによる実験的な取り組み「Project Muze」

ベルリンに拠点を置く大手ファッションEC企業「Zalando(ザランド)」が、Googleとともに「AIを使ってファッションデザインを行う」という実験的な取り組みを発表。AIが実験的に作り出したその奇抜なデザインが話題となっています。
AIが洋服を「デザイン」することの意味、そして将来このことがファッションECに与えることになるかもしれないインパクトについて考えてみました。

1.AIを使って洋服をデザインする「Project Muze」とは?

Zalando official site - Zalando
Zalando official site - Zalando

Zalandoは、靴や衣料品の販売を中心に、ヨーロッパ14ヶ国でアメリカの「Zappos(ザッポス)」型の事業を展開しています。ウェブサイトはショッピングのためのプラットフォームとして機能するかたわら、セレブリティを起用したWebマガジンを掲載するなど、充実したコンテンツを提供。2015年にはイギリスのファストファッションブランド「TOPSHOP(トップショップ)」と提携し、実店舗での販売に着手したほか、ベルリンでファッションの見本市やショーなどを展開してきた「Bread & Butter(ブレッド アンド バター)」を買収するなど、より広範囲な顧客の獲得を意識して活動の幅を拡げています。
そのZalandoがGoogleをパートナーに迎えて取り組むのが「Project Muze(プロジェクト ミューズ)」です。この取り組みでは、Googleが2015年にリリースした機械学習システム「テンサーフロー」を基に、イギリスに拠点を置くデジタル制作会社「Stinkdigital(スティンクデジタル)」の協力を得て、600人を超えるファッションエキスパートの好みや「Google Fashion Trends Report(グーグル・ファッション・トレンドリポート)」から抽出したデータなどによって訓練された「デザインエンジン」を開発。機械学習を利用することで、ユーザが積極的に関与し、影響を与えていくという新たなファッション作りのプロセスを模索しています。

2. AIが介在することでファッションデザインはどう変わるのか

Project Muze - Stinkdigital
Project Muze - Stinkdigital

Project Muzeは2016年の9月にベルリンで開催されたファッションのイベント「Bread & Butter 2016」で初公開されました。機械学習が介在することで、ユーザの好みやインスピレーションを仮想的なファッションデザインへと変換させるというこの試みは、「もし、人の個性や好きな音楽・芸術作品などの関心事にもとづいて洋服の形や生地、色が決まるとしたら?」という問いかけに対しての回答を示唆する、革新的な取り組みです。
「将来的にAIがデザイナーにとって代わるのか?」というと、Project Muzeの答えは、どうもそうではないらしいのです。むしろAIの力を借りることで、「着る人が自ら自分の衣服を作り出す」という、ユーザが主体となる服作りのかたちがそこにはっきりとイメージされています。

Project Muze - Stinkdigital
Project Muze - Stinkdigital

このプロジェクトは、Project Muzeのホームページにアクセスすることで誰でも体験できるようになっています。性別や年齢、今の気分、好きな音楽やスタイルなどについての簡単な質問に答えていくと、洋服のデザインとなって表れます。

・実際に使ってみました

あなたの固有のデザインを創造してみましょう
あなたの固有のデザインを創造してみましょう

あなたの性別はなんですか?
あなたの性別はなんですか?

好みのテイストは?
好みのテイストは?

いまの気持ちは?
いまの気持ちは?

なんでもいいから描いてみて
なんでもいいから描いてみて

***ここでしばらく待ち時間***

ai-zalando_10
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これがあなたのためのデザインです!  - Project Muse
これがあなたのためのデザインです! - Project Muse

ここでできあがったデザインは、世界に一つしかない貴重なデザインということになりますが、現段階ではあくまで実験の段階。実際に着たいと思える服かどうかはまた別の問題です。しかし、未来のファッション作りのあり方の一つの可能性を示すという意味では、画期的というほかありません。

3. Project Muzeが示唆するファッションECの未来形

もちろん、Zalandoがこのプロジェクトで意図しているのは、単なる話題作りでもなければ、こうして生まれた仮想デザインを衣料品という形にして売り出そうということでもありません。できあがったデザインの出来映えについては実用性などの面でやや批判的な意見が多いようですが、それはむしろ軽微な問題でしかありません。重要なのは、AIと対話する過程や服作りのプロセスそのものをユーザが楽しみ、自分にぴったりの洋服をカスタマイズしていくという経験そのものにあると言えるでしょう。

Project Muze - Stinkdigital
Project Muze - Stinkdigital

このことは、ZalandoをはじめとするファッションECにとっても示唆的と言えます。現在のファッションECでは、多くの商品を展示・陳列し、そのなかから好みの商品を顧客に選びとって貰うという形態が一般的です。AIが顧客の望む洋服を「デザイン」できるようになれば、こうした状況は一変するに違いありません。
AIが洋服を「デザイン」するという時、それは必ずしも、デザイナーが特定のイメージを洋服として形にするようなプロセスと同じようなものとは限りません。むしろ好みや気分、体の寸法など、あらゆる側面から要求された大量で多種多様な、しかも複雑なコマンドを短時間で処理し、顧客にとって最適な商品を即時に「選び抜く」過程こそが、AIによる洋服の「デザイン」と言えるのかも。
顧客は、AIとの対話を通して、本来自分が着たいものや着るべきものを「発見」するだけ。より精度の高いレコメンデーションを可能にするAIが急速に普及することで、ファッションECは顧客と商品とをマッチングさせるサービスに特化し、そのためのプラットフォームを提供する場ということになっていくことでしょう。だとすれば、現在のファッションECが抱えるフィッティングをはじめとした諸問題もきっと解決されることになるはずです。

◆こちらは「FASHION EC Lab」 編集部からの寄稿記事です。

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#005 AIが洋服を「デザイン」すればECの未来が変わる?-Zalando×Googleによる実験的な取り組み「Project Muze」

Cover photo by Stinkdigital.com

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