Business | 2015.11.16
身近になった3Dプリントはファッションの何を変えるのか―ファッションと3Dプリント【前編】

身近になった3Dプリントはファッションの何を変えるのか―ファッションと3Dプリント【前編】

3Dプリンティングという新しい製造技術が注目を集めています。

3Dプリンティングは、コンピュータで作成した3Dの設計データをもとに、3Dプリンタと呼ばれる機械を用いて、金属やナイロン、プラスチックなどの樹脂といった素材から物の形を「出力(より正確には積層造形または切削造形)」)する技術や手法です。

3Dプリンター
shutterstock.com

もともとは自動車をはじめとした、工業製品の試作段階におけるデザインの確認などで用いられていた手法ですが、素材の広がりや3Dプリンタの低価格化により、高度な産業利用の進展はもちろんのこと、手軽にものづくりを可能にする画期的な手法として、一般への利用も広がりつつあります。

3D関連のソフトウェアの進歩により専門家でなくとも設計データを簡易に作成できるようになってきていることや、「Makers’ Base」や「Fab Café」、「DMM.make」といった3Dプリンタの利用環境を提供するシェアードスペースの登場も、3Dプリンティングの普及を後押ししています。自作のおもちゃやアクセサリーを作ってみたり、設計データを共有したり、設計データを含めた「製品」を個人が販売したりと、3Dプリンティングに関連したエコシステムも形成されつつあります。

また私たちが普段目にするような製品のデザインや製造にとどまらず、広い意味での3Dプリンティング技術の応用事例としては、医療科学の分野における“バイオプリンティング”などがあります。

今年5月には、世界最大の化粧品企業ロレアルとバイオプリンティングのスタートアップ企業のOrganovoが、製品試験用の人間の肌の真皮(derma)の生産に関して提携し話題となりました。この提携には、倫理面や環境面に関する規制や配慮から、動物の皮膚を実験利用が難しくなっているという背景もあります。3Dプリンティングが解決することができる課題の幅広さを象徴する出来事と言えるのではないでしょうか。

ファッションデザインの領域にも広がり始めた3Dプリンティング

そしてプロフェッショナルなファッションデザインの領域においても、3Dプリンティングを利用するべく、新たな取り組みが続々と始まっています。

先行しているのはフットウェアの分野。特にスポーツを中心に機能性が重視されるスニーカーは、使える素材やデザインの幅の広さから、メーカーとユーザの双方にとって3Dプリンティングの利用に適した分野と言えそうです。特に積極的に研究開発を進めているのは、最大手の「NIKE(ナイキ)」と「addidas(アディダス)」。両社ともユーザのカスタマイズ需要への対応を含め、今後の製造工程への導入について言及しています。

Futurecraft 3D is a prototype and a statement of intent. We have used a one-of-its-kind combination of process and material in an entirely new way.

― addidas GROUP「ADIDAS BREAKS THE MOULD WITH 3D-PRINTED PERFORMANCE FOOTWEAR」より

なかでもNikeは、2014年のサッカーのワールドカップに合わせた限定コレクションのバッグやアメフト用シューズで、既に3Dプリンティングを使った製品を市場に投入しています。デザイナーズブランドでは、レム・D・コールハースがディレクターを務めるブランド「UNITED NUDE(ユナイテッドヌード)」は早くから3Dプリンティングを使った作品を発表しており、建築家などと組んだコレクションの展開が知られています。

3Dプリンティングを活用したUNITED NUDEの「ICE SHOE」― UNITED NUDE ウェブサイトより
3Dプリンティングを活用したUNITED NUDEの「ICE SHOE」― UNITED NUDE ウェブサイトより

ウェアの分野ではまだ“ショーピース”を抜けだせていない

一方でウェアの分野では、3Dプリンティングで使える素材が、一般的に服で用いられる素材とかけ離れているということもあり、事例自体は多くありません。そうした事例も、リサーチ志向の強い一部のプロダクトデザイナーや建築家が、実験的アイデアとして発表した例が多くを占めています。

中にはディータ・ヴォン・ティースが着用した、衣装デザイナー、マイケル・シュミット(Michael Schmidt)と3Dプリンティングを活用したクリエイションで知られるデザイナー、フランシス・ビトンティ(Francis Bitonti)によるドレスのように、メディアで話題になったものもありますが、やはり「つくってみた」感が強く、ファッションの文脈では捉えにくいものが多いのが現状です。

DIta Von Teese
マイケル・シュミットとフランシス・ビトンティによる、ディータ・ヴォン・ティースのドレス ― Francis Bitonti ウェブサイトより

ファッションの領域で活動しているデザイナーによる3Dプリンティングの事例として、最新の2016年春夏のシーズンで話題になったのは、「CHROMAT(クロマット)」です。建築のバックグラウンドをもつ、ベッカ・マッキャレン(Becca McCharen)が立ち上げたブランドで、ビヨンセが2013年のスーパーボウルのハーフタイムショーのパフォーマンスで着用したことで注目されました。その後もマドンナやニッキー・ミナージュ、テイラー・スウィフト、アリアナ・グランデらにステージやミュージック・ビデオのコスチュームを提供しており、コレクションもそうしたストロングなイメージのアンダーウェアやスウィムウェアが中心となっています。

「CHROMAT」2016年春夏コレクションで発表した「Adrenaline Dress」 ― CHROMAT ウェブサイトより
「CHROMAT」2016年春夏コレクションで発表した「Adrenaline Dress」 ― CHROMAT ウェブサイトより

2016年春夏のコレクションでは、世界有数のテクノロジー企業、インテルとのコラボレーション。アドレナリンや体温、ストレス状態を検知するセンサーを組み込み、センサーが感知する身体の変化に応じて3Dプリントされたパーツが稼働する、「Adrenaline Dress」と「Aeros Sports Bra」を発表しました。

CHROMATは、アメリカの若手ファッションデザイナーの登竜門である「CFDA/Vogue Fashion Fund」にもノミネートされ、「OPENING CELEMONY」や「Nordstrom」、東京では「Candy」といったショップでの取り扱いもあり、「Urban Outfitters」とのコラボレーションラインもスタートするなど、ファッション業界の中で一定の地位を築きつつあるブランドです。

ただ今回の3Dプリンティングの使い方については、やはり“ショーピース”としての話題づくりという感は否めません。

3Dプリントで作られたパーツはこのような動きを見せる ― CHROMAT ウェブサイトより
3Dプリントで作られたパーツはこのような動きを見せる ― CHROMAT ウェブサイトより

※後編はこちら。後編では、3Dプリンティングを使ったファッションデザイナーの先駆けとして知られる「IRIS VAN HERPEN」、3Dプリンティングをオートクチュールコレクションに取り入れた「CHANEL」などを事例に、ファッションにおけるクラフツマンシップと3Dプリンティングについて探ります。

ファッションと3Dプリント

Text : koso

Cover photo by adidas FUTURECRAFT

DiFa編集部



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