Topics | 2015.11.27
スマートフォン操作で温度を調整する服をつくりながらも、究極の自然体を追求するブランド「MINOTAUR」とは?

スマートフォン操作で温度を調整する服をつくりながらも、究極の自然体を追求するブランド「MINOTAUR」とは?

2015年10月24日から11月3日までの間、港区・増上寺で開催されたデザインイベント「AnyTokyo2015」にて、スマートフォン操作で温めることができるジャケットが発表されました。「MINOTAUR I/O COLLECTION」と名付けられた、そのジャケットを作ったのは日本の「MINOTAUR(ミノトール)」というブランド。

MINOTAURは「その人自身のアイデンティティのために」をコンセプトに、ライフスタイルに溶け込み、愛着の生まれる一着を提案し続けています。その流れで生まれた、このMINOTAUR I/O COLLECTIONは、スマートフォンの専用アプリを操作し、ジャケットの背中と首筋に仕込まれたヒーターを起動させると、約30〜60秒の間に発熱し暖かくなるというもの。温度は高温〜低温まで4段階で調節が可能で、胸のボタンが温度の高い順に赤→朱→緑→青に点滅する仕組みとなっている。バッテリーは中温で5〜6時間ほど持続するそう。

これまでにもアロマ成分を内蔵したスポーツウェアや、かかと部分に取り付けたダイヤルでサイズを調整する事ができる「Boaテクノロジー」を搭載したレザーシューズなど、テクノロジーを活用した服作りが度々注目を集めてきたMINOTAUR。

さまざまなシーンにおいてテクノロジーがファッションに歩み寄り、徐々に溶け込み始めた現在において、MINOTAURの服作りにはどのような想いが込められているのでしょうか。今回はMINOTAURのデザイナーである泉 栄一さんに、スマートフォン操作で温度が変わるMINOTAUR I/O COLLECTIONがどのような経緯で生まれたのか、お話をお伺いしてきました。

MINOTAURのデザイナー 泉 栄一さん。 ご自身も自然体なスタイルにさりげなくテクノロジーを取り入れていました。この日着用されていたメガネは話題の「JINS MEME」。

泉 栄一(Eiichi Izumi)

有限会社ファント 代表取締役 / MINOTAUR DIRECTOR
その他、大手ブランドのディレクション、ユニフォームデザインなどを手掛ける。
主な仕事に、ワコールのコンディショニングウェアー「CW-X」アドバイザー。ニュージーランド・メリノウールによる保温、温度調節に優れたアウトドアベースレイヤーのパイオニアブランド「icebreaker」日本企画ディレクター。スポーツウェアの技術と消臭テクノロジーを応用したエチケットブランド「MXP」メンズディレクター。「SONY」ショールーム、及び「JiNS MEME」のショップユニフォームデザイン。

「あったらいいな」を自然に取り入れるMINOTAURの服作り

――まずはじめに、今回発表されたMINOTAUR I/O COLLECTIONのアイテムについて、ポイントや込められた想いなどを教えて下さい。

これらのアイテムは自然な流れの中で、結果的に生まれたものなんです。デジタルテクノロジー×ファッションという枠組み以前に、人々の嗜好が変化していく時代の流れによって自然に出来たものだと思っています。

今の時代ではテクノロジーを活用したものが当たり前になってきているので、今回のアイテムのポイントは、スマートフォン操作でジャケットが暖かくなるところよりも、”暖かくかるものを自然と取り入れている”というところなんです。僕らの役割はリアルファッションなので、日常で本当に使いやすく、わざとらしくなく、「あったらいいな」というものが自然と取り入れられているものを作ることを目指しています。

ただし自然といっても、ちょっと気付く程度の主張も入れるようにしています。今回のジャケットに関しては、胸のあたりにボタンを付けました。これがないと、単に着る人の自己満になってしまうんですよ。「普通だけどこれって何?」というワンポイントをいれることで、ちょっとした疑問からコミュニケーションが生まれるでのはないかと。

胸についているワンポイントボタンは温度によって赤→朱→緑→青に変化する。ーMINOTAUR
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MINOTAUR

新しい出会いが起こるためにはコミュニケーションが必要です。コミュニケーションというのは、何かしら知らないことがないと生まれづらいと思うんですよ。例えば、お店にいらっしゃるお客さんの中にはインターネットで事前に調べてきて、ブランドのことを知ってきてくださっている人もいるのですが、実際に「着る」という体験したことがないにも関わらず、ブランドのことを知ってると思い込んでしまっている状態は、自然ではないと思うんです。それは接客でも同じことがいえます。「え、売る気なの?」とお客さんが身構えてしまった時点で、それは自然体ではないんです。

そこでこの服のようにワンポイントボタンをつけることで「これってどういうことなんですか?」という質問、つまりコミュニケーションが生まれます。そこで初めて体験がリアルとなり、自然体になる。そういうものを作っています。

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MINOTAUR

――AnyTokyoでの展示をはじめ、実際にジャケットを色々な方がご覧になられたと思うのですが、周りからの反応はいかがでしたか?

ファッション業界の人たちからは、想像以上に反応が薄かったです。見て見ぬふり的な態度で、良いも悪いも言われませんでした。オーダーも殆どつかなかったです。ファッション業界全体としても、たまたま今は新しいことを見つけるタイミングではなかったのだろうという印象です。

一方で、2015年1月のパリの展示会までは、I/O COLLECTIONと通常ラインどちらも発表し、各方面から多くの人に注目して頂きました。この時に、僕らの作っているものはファッションだけど、僕らが昔から考えている”ファッション”というものは、国外やファッション分野以外の方たちの方に伝わりやすいんだなということを実感しましたね。

僕らのやることって、いつも最初は快く受け入れられないんですよ(笑)。僕は新しいものやことが好きなのですが、意外と新しいもの好きの人って多くはないんだなと考えさせられる部分でもあります。

――アイテムを作るまでに、苦労した点はなんでしょうか。

大きく2つあります。1つは一緒に協力して作っていく人との出会い、もう1つは全く違う分野の人同士を結びつけることです。

僕らは以前から、”電気を使わずに暖まることが出来る肌着”を作っていました。それをより使いやすくしたいという思いが時とともに出てきた中で、”炭素繊維のコードを中綿に入れた服”といものがあって、それが暖まりやすいらしいということを知ったんです。しかし、実際に試してみたものの違和感がありました。炭素繊維のコードを中綿に入れた服というのは、あくまでも電気毛布の延長線上に感じ、形は洋服だけど自然なものではなかったんです。且つ、仕事への姿勢の違いなどから意気投合することが出来ず、うまくいきませんでした。

もっと自然体で使えるものはないかと思っていた時に、知り合いの紹介で炭素繊維ではない繊維で、暖まることができる素材を研究している人を紹介してもらいました。色々な人と会っていった中、たまたまフィーリングの合う人と出会ったんです。アイディアを実際に形にするまでの過程における、人との出会いという部分が苦労した一つ目ですね。

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MINOTAUR

二つ目は、その後、良い出会いから見つけた繊維で洋服を作ろうとした時に、洋服を作る生産側の人とテクノロジー部分担うエンジニアリング側の人とのこだわりがなかなか噛み合わず、そこでも苦労しました。洋服を作る生産側の人は通常の生産ラインを崩されることを懸念して、失敗したらどうなるのか、時間がどれくらいかかるのかが分からないなどの不安感を募らせていらっしゃいましたし、エンジニアリング側では、バッテリーやアプリなどそれぞれの領域に特化したエンジニアがいるため関わる人数が多く、それぞれの意見を汲み取りながら同時進行するのが大変でしたね。

結局、暖まるジャケットを作ろうという着想から開発までは約半年かかりました。僕らが大手企業ではなかったからこそ出来たことだと思います。

どれを捨ててどれを加えるのか。ファッション要素とテクノロジー要素のバランス感が重要

――ファッション×テクノロジーを融合していく中で、常に意識していることはありますか?

ファッション分野以外の方たちがファッションっぽくしたものって、ファッションになっていないことが多いんですね。ガジェットとして見るのはいいけど、着るのはちょっと……みたいな。そういう時代が長かったので、ファッション要素とテクノロジー要素のバランス感はすごく気をつけて見ていました。どれだけデジタルかということよりも、どれを捨ててどれを加えるのかというバランス感覚が重要で、全てが新しいということにはあまり注目していないですね。

僕はわざとらしいものがあまり好きではないんです。僕は常日頃から、ファッションとは着る人の体に自然にフィットするものでありたいと思っています。なので、そのアイテムが違和感なくどれだけ自然体かというところに注目しています。

ーー今回のアイテムでいうと、先ほどのスマートフォン操作のボタンの部分になるかと思いますが、他に自然体を意識した部分ってありますか?

スマートフォン操作によって暖まる以外にも、防水性や伸縮性などの要素も取り入れています。スポーツウェアに用いる薄くて伸びる最先端の生地を使っているんですが、実は作る時に一番困ったのは、その生地をアパレルの生産ラインで縫うことが出来なかったことなんです。もちろん、スポーツウェア専門の工場で縫ってもらうこともできたのですが、そうすると雰囲気が固いものが出来てしまい、僕らが求めているような柔らかさが出ませんでした。

それを経て自然体を表現するということが大変でしたし、気付かれない自然なマッチングというところに一番こだわりました。着ていて突っ張る服というのは不自然だと思うので、着て心地よいものということを意識して服作りをしています。

実際にジャケットを着てみると身体にフィットし、服を着てるのか分からないくらい自然体でいられます。
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生地は完全防水で、着心地も非常に良い。

ブランドとしては、”ファッション業界のサイクル”からはみ出すことに興味があります。例えるなら、古着屋さんに無いもの、みたいな。決して歴史に逆らうわけでなく、昔無かったものに新しいものを足して、それでいて違和感がないものに惹かれます。僕らは今後も、お洒落な服というのは大前提としておきながらも、お洒落さをさらに追求するというよりは、人が本来持つ”自然体の魅力”を引き出すお手伝いができる、そんな洋服を作っていきたいですし、そのためにテクノロジーを使ったほうが良いのであれば、活用していけばいいと思っています。

デザインとテクノロジーが出会うことによって、今まで以上に自然な形で日常に溶け込んでいく

――泉さんはファッション×テクノロジーの今後の可能性について、どのようにお考えですか?

今でさえ、単なる服の柄やスタイルだけではなく、もっと広義な意味で使われ始めている「デザイン」という言葉の意味自体が変わってきていると思います。。今後どうなるのかは分かりませんが、テクノロジーが人々に違和感なく馴染んでいくために、デザインが重要な要素になる、つまりテクノロジーをより自然に、まろやかにしてくれるのではなないでしょうか。今まで以上にデザインという行為が重要となっていく時代の中で、デザインとテクノロジーの自然で良い出会い方が増えていくと良いですよね。

ファッション分野全体の変化でいうと、もっと角が取れて丸くなめらかになっていくのだろうなと思います。現時点は「テクノロジー×ファッション」という分かりやすさが面白い時期なので、それをファッションとして見るとやや角がある気がするんですよね。今後は、現在テクノロジー×ファッションに求められている”分かりやすさ”が徐々に減っていき、もっと日常に溶け込んでくるじゃないかと。

あとは、服がより皮膚に近くなってくるだろうなと思います。着るとか纏うとかではなく、服自体が身体をデザインするようになる、ということも考えられますね。服が軽いほうが良い、薄い方が良いというのは当たり前になってきていますし、究極的には皮膚になっていくのかなと。

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MINOTAUR I/O COLLECTIONは現在メンズのみの展開ですが、来年にはレディース展開も考えているそう。人によく馴染む自然体のスタイルを、自然な流れの中で作っていきたいと語る、デザイナーの泉さん。

「Make yourself known―その人自身のアイデンティティーのために」というMINOTAURのブランドコンセプト通り、テクノロジー×ファッションということは、服作りの一要素過ぎず、本質には人が違和感なく自然な形で服を纏うというMINOTAURの思想が見えました。

主張はせず、かといって沈黙もしないMINOTAURのスタイルには、今後も注目です。

Text : Ryutaro Ishihara

Cover photo by MINOTAUR

DiFa編集部



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