Topics | 2017.05.02
芸能プロダクションがファッション特化のFabスペースを作ろうと思ったワケ

芸能プロダクションがファッション特化のFabスペースを作ろうと思ったワケ

古舘伊知郎さんをはじめとする7人のブレーンによって設立された芸能プロダクション・番組制作プロダクション「古舘プロジェクト」。主にタレント・放送作家のマネジメント、テレビ・ラジオ番組の企画制作、書籍の販売などを手がけてきた同社ですが、最近は芸能プロダクションの枠を超えた動きも見せています。

その1つが、ファッションに特化したFabサービス「andMade(アンドメイド)」への事業進出です。一見、何の関係性もなさそうな芸能プロダクションが、なぜファッションに特化したFabスペースを作ろうと思ったのか?同プロジェクトの仕掛け人である、古舘プロジェクト 事業開発部 MMB事業本部 エグゼクティブプロデューサーの荒木浩二さんに話を伺いました。

「リテラシーの高い人が盛り上がってもブームにならない」ーー 芸能プロダクションがファッション特化のFabスペースを作ろうと思ったワケ

「洋服づくり」を一般的なものにしたかった

— 芸能プロダクションというイメージが強かったのですが、なぜ、ファッションに特化したFabサービス「andMade(アンドメイド)」を始めようと思ったのでしょうか?

荒木:古舘プロジェクトはテレビ番組を中心に事業展開しているのですが、インターネットが当たり前のように使われるようになった今、テレビ以外の事業の可能性も探っていけなければならない、と思いスタートしました。

さまざまな事業の選択肢がある中、この2〜3年、個人的には“ものづくり”の波が来ていることを強く感じています。例えば、料理の領域はクックパッドやABCクッキングスタジオの登場により、自分で料理を作ることが一般的になりました。その後も、「minne(ミンネ)」を筆頭にアクセサリーのハンドメイド市場が出来上がったことで、ものづくりやハンドメイドが大衆化していきました。

ただ、衣食住という観点で考えてみると、「衣」だけは自分で作る発想がない。もちろん、アクセサリーなどの小物についてはありますが、「衣(洋服)」そのものを自分で0から作る習慣がそこまでなかったのです。なぜ、洋服を自分で作ろうと思わないのか。その理由を調べてみると、いくつか問題があることが分かったんです。

— どのような問題があったんでしょうか?

荒木:まず、洋服を作るスペース自体はあったのですが、どこか閉鎖的で一般の人が使える雰囲気ではなくて……。ものづくりやハンドメイドという言葉が叫ばれていた割には、一般の人が洋服を作る環境がそもそも出来上がっていなかった。

次に、技術的なハードルです。例えば、アクセサリーは部材屋さんも多く、自分で始めやすく作りたいと思った時のハードルが低いのに対し、洋服づくりを始めるには環境も整っておらず、ハードルが高く難しい。

「リテラシーの高い人が盛り上がってもブームにならない」ーー 芸能プロダクションがファッション特化のFabスペースを作ろうと思ったワケ

さらにリサーチをしていく中で問題だと思ったのは、専門学校を卒業して縫製技術など専門的なスキルを持っている人が数年後、意外と普通の仕事をしていること。全員がアパレル業界に就職しているわけではなかったんです。

その理由を聞いてみると、卒業したての頃は「自分でブランドを立ち上げる」と意気込んでいる人は多いのですが、資金的な問題はもちろんのこと、洋服を作る場所がなく途中で挫折してしまう。専門学校で使えていた機材が1人になると全然使えない……という問題もありました。

こうした問題を踏まえ、技術的なハードルを下げ、機材を自由に使えるような場所があれば「服を作りたい」と思う人が出てくるのではないかと思い、ファッションに特化したFabスペース「andMade(アンドメイド)」を立ち上げることにしました。

「リテラシーの高い人が盛り上がってもブームにならない」ーー 芸能プロダクションがファッション特化のFabスペースを作ろうと思ったワケ

デジタルデータをプリントし、ポリエステル系のオリジナル生地を創る事ができます。
大きなデスク(作業台)に生地や型紙を広げて快適に服創りを行う事ができます。
オリジナリティ溢れるアイデアを実現するためのデジタル工作機器を設置しています。

スタープレイヤーが1人でも輩出できれば成功

— 技術的なハードルを下げる、とありますが、具体的にどのようなことを考えていますか?

荒木:トークイベントを行って「ファッションは楽しい」ことを啓蒙したり、ワークショップを開催したり、専門学校の教師を呼んで洋服づくりの講習会を開催したりなどを仕掛けていこうと考えています。

もちろん、それだけで技術的なハードルが下がるとは思っていません。ファッションもITもアーリーアダプターだけがざわついても、世の中的には全然ざわついていない。つまり、マジョリティが「服作りって楽しいよね」と言わなければ、“ブーム”は起こらないのです。

“ブーム”を作り出すためには、FacebookやTwitterでのプロモーションには限界があると思っていて、個人的にはテレビの持つ力が強い、と思っています。

例えば、マツコ・デラックスさんが「美味しい」と言えば数億円の市場ができると言われているくらいで……。マジョリティにリーチするには、テレビ業界の単純な構造を活用するのは重要。そこはファッション業界やITベンチャーではカバーできない領域だと思っています。なので、芸能プロダクションであり、数々の番組を作り上げてきた古舘プロジェクトだからこそ、テレビを効果的に活用することで、マジョリティにも届けることができると考えています。

— すでに多くのタレント、テレビの実績がある古舘プロジェクトだからこそ、出来ることがあると。

荒木:そうですね。原宿あたりを歩いている若い女の子たちが、「服づくりって楽しい」と言うためには何が必要なのかを考えたとき、タレントが自分で作った服を着て、「この服は私が作ったんです。可愛いでしょ」と言うことが大事なことの1つだと思っています。

これまでのFabスペースのように、1時間単位で場所を貸し、機材の利用料をとる、といった場所貸しサービスにした瞬間、同時に何人使えるか、機材を何台稼働できるかといったようにキャパシティが大事になってしまう。そこに未来はないし、楽しさもない。

だからこそ、私たちはそもそもFabスペースのレンタルはビジネスメニューの1つくらいにしか考えていなくて、服を作れるプロを養成したり、出来上がった服を着てくれるモデルを輩出したり、といったマネジメントビジネスを並行して行いたいと考えています。

そう考える理由は、古舘プロジェクトに所属している、篠原ともえの存在が大きいですね。彼女は1990年代末期に、“シノラー”という一大ブームを巻き起こしていますし、現在は、タレントとデザイナーを半々でやっています。デザイナーとしては、松任谷由実さんのコンサートツアー衣装などを手がけています。第二の篠原が出てきてくれることを期待しています。

— andMadeをどのような場所にしたい、と思っていますか?

荒木:「andMadeに行くと服が作れて、出来上がった服が可愛くて、それを着るとテンションが上がる」という循環サイクルを作っていきたいですね。その結果、服は作れる、服づくりは楽しいということにつながり、そこからスターが輩出できたらいい。そうすれば、ファッション業界にちょっとはインパクトを与えられるんじゃないか、と思います。

明るく開放的なハイカウンターで打ち合わせや休憩ができます。

だからこそ、andMadeのKPIは会員数や月額利用料ではなく、スタープレイヤーを1人でもいいから生み出すこと。それはファッションデザイナーかもしれないし、作られた服を着るモデルかもしれないし、服を着ながら歌ってくれるアーティストかもしれない。

マネジメントする人をファッションと紐付けて、スタープレイヤーにすることが最初にクリアすべきKPIになると思います。スタープレイヤーを1人でも輩出できれば、ある意味成功だと思っています。

「一億総ファッションデザイナー」を目指して

「リテラシーの高い人が盛り上がってもブームにならない」ーー 芸能プロダクションがファッション特化のFabスペースを作ろうと思ったワケ

— とはいえ、服づくりの人口が増えれば増えるほど、andMadeだけでは対応しきれないと思います。何か打ち手は考えていますか?

荒木:基本的には店舗ビジネスなので、2店舗目、3店舗目の出店はもちろん視野に入れています。ただし、コンビニではないので東京都内に10店舗作る、といったことは全然考えていません。

あとは海外ですね。タイや中国は今まで日本のアパレルの生産拠点となっていたわけで、服を縫える人はたくさんいる。つまり、もう少しスキルを習得すれば、ファッションデザイナーになれるかもしれない人が多くいる。もし、自分でブランドを立ち上げられるようにすれば、あれだけの人口なので、日本よりもスタープレイヤーを輩出できる可能性があると思っているので、数店舗は海外に出店することも考えています。

— どのようなワークショップを行うか、具体的に決まっていることはありますか?

荒木:機材に関しては、カッティングマシンやUVプリンタ、レーザーカッター、3DプリンタといったFabスペースにあるようなものは一式取り揃えています。それに加えて、世界のアパレル生産を支える工業用ミシンのトップメーカーJUKI株式会社の工業用ミシン、職業用ミシン、ロックミシン、キルトミシン、シリンダーベッドミシンなど、アパレルメーカーが使用するものと同じミシンをいつでも利用できます。

ワークショップに関しては、トーク / クラスと呼んでいるのですが、トークではファッションに精通している人や、ファッション業界で活躍している人にトークイベントを行ってもらい、クラスでは簡単なワークショップや本格的なカリキュラムを組んだ講座を展開していこうと思っています。

5月開催予定のワークショップ

具体的には、いきなり服づくりのエッセンスを教えるのではなく、まずは3Dプリンタを使ってボタンを1つ作ってもらう。そうすることで、まずはファッションに興味を持ってもらい、最終的に服づくりにつながっていけばいいな、と思います。

— 関心が高くないと服づくりを続けるのは難しそうだな、と思っているのですが、何か対策は考えているのでしょうか?

荒木:そこに関してはメディア戦略が重要だと思っています。先ほど少しお話しましたが、テレビ屋である私たちはテレビ番組をつくりマジョリティにアプローチしていこうと。テレビ番組といっても地上波ではなく、若者と相性の良いAbemaTVでの番組制作を考えています。

他には、間接的ではあるのですが、ファッションとスイーツは相性が良いと思っているのでFabスペース内での、スイーツなどの提供は考えています。週替わりでスイーツを提供することで、足を運ぶハードルを低くできれば、と思っています。

とはいえ、ファッションに興味があることは大前提なので、ファッションに興味はあるけど服づくりは考えていない、という人に対して手を変え品を変え、アプローチしていきたいですね(笑)

— 最後に今後の展望がありましたら、教えてください。

荒木:このプロジェクトを通して、「一億総ファッションデザイナー」にすることを目指しています。自分で服を作る、ということをもっと一般的にしていきたい。そうすることで、世界で活躍するスタープレイヤーが輩出できればいいな、と思っています。

— ありがとうございます!andMadeのオープン、楽しみにしています!

芸能プロダクションとしては、初めてファッションに特化したFabサービスに参入し、同時にスペースを作ることにした古舘プロジェクト。ファッション業界やITベンチャー企業ではアプローチできない視点から、服づくりを一般化させる、という考えは非常に面白いものだと感じました。今後どういった展開をしていくのか、オープン後の動きも楽しみです。

andMade

https://andmade.tokyo/

DiFa編集部



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