Special | 2015.12.02
ファッション×テクノロジーの未来を予測する近道は「過去と現在を知ること」【2】─東京ガールズコレクションがファッションショーを行う理由

ファッション×テクノロジーの未来を予測する近道は「過去と現在を知ること」【2】─東京ガールズコレクションがファッションショーを行う理由

※こちらの記事は先日公開した『「ファッション×テクノロジーの未来を予測する近道は「過去と現在を知ること」【1】──「新しさ」とメディア考古学』の続編です。

ファッション業界では1年に2回新作を発表することが通例となっていますが、そのときにしばしばファッションショーが行われます。このファッションショーという発表形式の歴史をひもといてみると、その誕生は19世紀後半にまで遡ることができます。それ以前は、新しい服が欲しくなると、仕立屋のところに赴いて相談しながら服をデザインしてもらうというやり方が主でした。そこに新しい方法を取り入れたのがオートクチュールの祖と呼ばれるチャールズ・フレデリック・ワース(Charles Frederic Worth)です。彼が考えたのは、先にサンプルを作り、それを顧客に見せて注文を取るという方法です。その際、19世紀の豪華絢爛なドレスは実際に人が着ないと形がわからないため、モデルに服を着せて歩かせる、いわゆるファッションショーが行われました。つまり、ファッションショーは立体的な服をわかりやすく見せるために必要なものとして考案されたのです。

それから150年ほど経った現在でも、パリコレクションや東京コレクションなどいわゆるハイファッションの世界ではファッションショーが最も重要な発表形式とみなされています。しかしながら、写真も映像も手軽に撮ることができ、インターネットが普及したため情報の発信も容易に行えるようになったいまでは、ファッションショーを行う必然性はきわめて希薄になっていると言わざるをえません。

パリコレクションと東京ガールズコレクションの違い

一見すると、現在のパリコレクションはワースからの伝統としてファッションショーを行っているようにも見えます。が、その中身は同じではありません。前者はバイヤーやジャーナリスト、雑誌編集者などが主な対象となっていますが、後者はあくまで顧客が対象でした。見せる相手が違えば見せる目的も変わりますので、現在のパリコレクションとワースの行ったファッションショーは似て非なるものだと言えるでしょう。実は、ワースの行ったことが受け継がれているのは、オートクチュールとかけ離れているように思われがちな東京ガールズコレクションなのです。

©TOKYO GIRLS COLLECTION 2015 A/W
©TOKYO GIRLS COLLECTION 2015 A/W

東京ガールズコレクションはファッションショーを中心としたイベントですが、携帯電話などを使ってその場で商品を注文できるシステムが取られています。このことは、東京ガールズコレクションがファッションショーを見せる相手が、ワースと同様にブランドの顧客であることを示しています。とはいえ、19世紀に比べると何もかもが飛躍的に進化している21世紀では、単に服を売るためであればオンラインショップなどの方がよっぽど効率的なようにも思われます。それなのに東京ガールズコレクションはなぜ時代がかったようにも思われるファッションショーという形式を取っているのでしょうか。そのヒントをくれるのが、これまた19世紀に活躍したギュスターヴ・ル・ボン(Gustave Le Bon)という思想家です。

熱狂的な群衆の中で服を見せて購入欲をあおる―東京ガールズコレクションにおけるファッションショーの意味

ル・ボンは主著の『群集心理』において、群集というものは衝動的で興奮しやすく、そのなかにおかれた人は感情や行為が「感染」しやすくなると述べています。これこそが、東京ガールズコレクションがファッションショーを行う理由なのです。

1人で実店舗やオンラインショップで冷静に商品を見るのと、ファッションショーを見るために集まった熱狂的な群集のなかで服を見るのとでは、状況がまったく異なります。お祭りの夜店で他人が食べているフランクフルトがおいしそうに見えてついつい買ってしまったり、好きなバンドのライブで用途もあまり考えずにタオルなどのグッズを買ってしまったりという経験は誰にでもあるのではないでしょうか。東京ガールズコレクションではこの群集効果によって、購買欲をそそることができているのです。

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A_Lesik / Shutterstock.com

また、ル・ボンは感染を起こしやすくするには「断言」することが効果的だと言っています。

およそ推理や論証をまぬかれた無条件的な断言こそ、群集の精神にある思想を沁みこませる確実な手段となる。断言は、証拠や論証を伴わない、簡潔なものであればあるほど、ますます威力を持つ。
この断言は、たえず、しかもできるだけ同じ言葉でくりかえされなければ、実際の影響力を持てないのである。(・・・)断言された事柄は、反復によって、人々の頭のなかに固定して、遂にはあたかも論証ずみの真理のように、承認されるにいたるのである。

― ギュスターヴ・ル・ボン『群集心理』(桜井成夫訳)、講談社、1993年。

東京ガールズコレクションの観客たちがモデルや服に対して一様に投げかける「かわいい!」の声。彼女たちはけっして服の魅力を具体的に描写することはありません。次々にモデルが登場するファッションショーでそんなことができるのはよっぽどトレーニングを積んだ人だけでしょう。しかし、それこそが重要なのです。「証拠や論証を伴わない、簡潔な」言葉である「かわいい」という断言の反復、それによって観客のなかで服への欲望が加速度的に増していくことになるのです。

歴史を参照しながら過去の事象を現代のテクノロジーによってどのようにアップデートできるのかを考える重要性

ワースのブランドはオートクチュールであるため、ショーが終わった後に顧客ひとりひとりとゆっくり商談をしたはずです。その点では東京ガールズコレクションと違う部分ももちろんありますが、ファッションショーの目的とターゲットを考えるとかなり類似したものだと見ることができます。テクノロジーが進化し、社会のあり方も変化した現在、19世紀とまったく同じことをすることはできませんし、その必要もないでしょう。

しかしながら、前回指摘したように、人々の思考や行動はそんなに変わるものではありません。歴史を参照しながら、過去の事象を現代のテクノロジーによってどのようにアップデートできるのか考えること。それこそが重要なことであるように思われます。

※続編『「ファッション×テクノロジーの未来を予測する近道は「過去と現在を知ること」【3】──アーキテクチャとしての「WEAR」』に続きます

Text : 蘆田 裕史

DiFa編集部



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