| 2017.07.17
AI時代のクリエーション~第1回「AI×ファッションの目指すもの」小川徹

AI時代のクリエーション~第1回「AI×ファッションの目指すもの」小川徹

Creating with  Machine~AI時代のクリエーションに向けて~第1回「AI×ファッションの目指すものは?」

どう使うかにシフトしてきたAI

「ディズニーランドよりも混んでる…」あちこちから混雑ぶりを嘆く声が聞こえてくる。2017年6月28日~30日にかけて東京ビッグサイトで開催された業界向けの展示会「AI・人工知能EXPO」でのことだ。

AI・人工知能 EXPOの会場の様子

AIだけに特化した展示会としては日本初。111社が出展し、来場者数は、事前予想の3倍以上、4万人を超えた。

出展社の中には、これでAIと言っていいの?というものもあったが、チャットボットに代表される自然言語処理や、異常検知に代表される画像認識などの分野では、様々なソリューションが展示され、” 使える技術”を求めている人々であふれていた。

基調講演を行った日本学術振興会理事長の安西祐一郎氏も、「AIの研究開発は、これまで研究機関やIT企業が主体だったが、ここにきてユーザ企業がその事業に活かす段階に来ている」と力説していた。

私は、2015年の1月~2月にかけて放送したNHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」という番組に、プロデューサーの一人として関わった。このシリーズは、30年後の未来はどうなっているのかを、テクノロジーの進化に注目して探ったもので、初回はAIの特集だった。それから2年が経ち、我々の予想を大きく上回るスピードで進化を遂げ、日本でも、具体的なビジネスでの活用の段階にまで来ようとしていることを実感した。

パーソナルAIプラットフォーム「SENSY」

SENSYのブースの様子

今回の展示会の中に、ファッションに特化した出展はほとんど無かったが、パーソナル人工知能プラットフォーム「SENSY」を、2014年から展開するカラフル・ボード株式会社の展示は、AI×ファッションの未来を考える上で興味深かった。

「SENSY」は、ユーザの好みを学習させることで、その人の感性(センス)を理解することを目指すAI。これまで、自分に合ったファッションアイテムやコーディネートを提案してくれるアプリを皮切りに、三越伊勢丹でのAI接客や、ECサイトとの連携など、様々なサービスを展開している。近年は、ファッションだけでなく、食やコスメの分野にも進出。ユーザ一人一人のライフスタイル全体のパートナーとなるAIを目指している。

まずはAIで需要を予測

カラフル・ボードの今回の展示は、流通業を中心とした様々な企業に、POSシステムなどを提供している株式会社VINXとの共同出展。

AIを活用するには、大量のデータが必要となる。近年話題となっている囲碁や将棋のAIは、膨大な過去の対戦データをすべて読みこんだ上で、さらにAI同士の対戦の膨大なデータによって、進化を遂げていったという。

カラフル・ボードの渡辺祐樹社長は、これまで蓄積してきたユーザ13万人分のデータに加えて、VINXの持つシステムとそれに連なる膨大なデータが、AIを進化させるのに有効だと語る。

展示の目玉の一つが、「SENSY MD」というサービスだ。これは、アパレル業界で課題となっている過剰在庫・廃棄ロス・欠品による販売ロスをなくすために、AIを使って需要を予測し、それに基づき生産・販売しようというものだ。

仕組みはこうだ。まずは、ユーザ企業の持つ顧客・購買・在庫データと、天候やSNSなどの外部データをAIに学習させる。さらに、「SENSY」でのこれまでのパーソナルAIのデータを掛け合わせることで、顧客一人一人がどんな購買行動を取るかをAIが予測。この予測を総合して仮想のマーケットを作ることで、アイテム・品番単位での需要が導き出されるのだという。

「SENSY」アプリでの実績をもとに、顧客一人一人の行動を仮想で予測できるというのがAIとの連携のメリットだ。実際の売り上げデータを、AIにフィードバックし、次の予測に活用することで、予測の精度を高めていく。この需要予測に加え、今後は、いつ、どのくらい値下げをすれば良いのかといった、AIを活用した販売価格の最適化にも取り組むという。

大手アパレルとの共同研究開発

このサービスを開発するにあたって、カラフルボードは、「nano・universe(ナノ・ユニバース)」などを展開するアパレル大手の株式会社TSIホールディングスと組んで共同研究を行ってきた。

その中心となっているのがIT戦略部長の今泉純氏。5年前にNTTデータから転職してきた今泉氏が、まず手掛けたのは、それまでバラバラだった社内基幹システムを統合することだった。これにより、現在34あるブランド、1000社の仕入れ先、8000の販売拠点、13社の提携ECサイトなどのデータを一括管理することができるようになった。

それだけでなく、将来のAIなどによるビッグデータ活用に備え、保有するデータの粒度を更にきめ細かくした。210万SKU(同品番の色・サイズ違いなど、在庫の最少単位)の商品について、保管場所などだけではなく、誰が管理し、どのチャンネルに出すものかといった、よりきめ細かいデータが取れるようにした。更に、全顧客数百万人分の全購買データが、場所・時間・明細ごとに保管されるようになった。

こうした徹底したIT化に加えて、今泉氏が業務改善の切り札の一つとして導入したのがAIだ。去年8月からのカラフル・ボードとの実証実験では、レディースの2ブランドについて、従来、MD担当者の経験と勘に依存してきた需要予測業務を、AIを活用することで、より科学的に精度を高めることを目指している。

昨年度は、これまで需要予測に使われてきた、商品情報・市場のトレンド・広告の打ち方・競合他社の状況などに加え、「SENSY」によるパーソナルAIスコア(顧客一人一人の行動予測)も併せて、AIに投入し、需要予測を行った。その結果、初回生産分では、人間のMDとほぼ同等、追加生産分では、人間を超える精度を達成した。今年度も実証実験を重ね、さらに精度の向上を図るという。

そして、顧客のクローゼットとつながる

カラフル・ボードが現在進めているのが、ベータ版として提供しているサービス「SENSY CLOSET」の活用だ。このサービスでは、ユーザは自分のクローゼットにある服の写真を撮って登録し、自分の好みのコーディネートを作成できる。さらに、どのコーディネートを着用したかをカレンダー上で記録できる機能を持っている。

これまでのアパレルの販売では、購買後の着用状況のデータを取ることが困難だったため、店頭での提案に限界があった。このサービスを、店頭やECの接客とつなぐことで、顧客のクローゼットの状況に合わせて、提案ができるようになる。これにより接客力とユーザの利便性を向上させようという戦略だ。

今年9月には、先行する「SENSY」アプリと連携し、本人の好みを学習し、クローゼットの中の最適なコーディネートを提案してくれるサービスとして本格的にスタートするという。

カラフル・ボードは、この「SENSY CLOSET」のサービスを、AIが需要予測をするサービス「SENSY MD」とつなげる予定だ。これによりお客のクローゼットと服の生産・販売の現場が、AIを介してつながることになる。

最後に残るフロンティア・クリエーション

IOT・インダストリー4.0などの掛け声とともに、近年、様々な産業で、ものづくりの上流から下流までのサプライチェーン全体を、デジタルプラットフォームでつなごうという動きが盛んだ。その流れは、デザイナーや職人による人間の技の比重が大きく、IT化が進んでいなかったファッション業界にも及ぼうとしている。TSIホールディングスでは、AI活用の実証実験を今年度までで終え、来年度以降、IOTによるスマートファクトリーや、AIを本格的に導入したサプライチェーン全体の最適化を目指すという。

こうした流れの中で、最後のフロンティアとして残っているのが、最上流のクリエイティブの領域だ。グーグルがAI「ディープマインド」に絵を描かせているように、音楽・小説・広告など様々な分野でAIによる創作のチャレンジが始まっている。

ではファッションではどうなのか?今回取材させていただいた2人に聞いてみた。

TSIホールディングスの今泉氏は、あくまでも個人的な見解として、サプライチェーンがAIを通じてつながり、さらに、トレンドなどの情報がAIが活用できるようなデータとして扱えるようになっていけば、将来的には、AIを使ったクリエーションも夢物語ではないのではと語る。例えば、AIが大まかなデザインを提示し、細部は人間のデザイナーが作りこみ、更に職人が精度の高い加工をするというように。

一方、パーソナルAI「SENSY」を展開しているカラフル・ボードの渡辺社長は、一人一人のセンスや好みを完璧に把握しているAIの集合体ができれば、そこから新たなデザインを生み出すことも可能だと考える。既にファッション以外の分野では、大手メーカーとAIを使った商品開発をスタートさせているという。

人間のデザイナーとAIがタッグを組んで、(つまりAIを使いこなすデザイナーが)パリコレに参入という時代が来るのかもしれない。

AIと共創する時代のファッションへ

2013年夏、私は、繊研新聞紙上で、「Working with machine デザイナーたちがデジタル技術と戯れる日」という連載を行った。これは、3Dプリンター・3DCADなどのデジタルファブリケーション、ネット上での共創など、デジタル技術の急速な進化の中で、変化しつつあるクリエーションの現場のレポートだった。

それから4年、テクノロジーの進化は更に加速し、AI・IOT・VRなど、新たなバズワードが次々と生まれ、社会を揺り動かしている。こうした中、AIの能力が人間を超え、人類の敵となる、とか、人間の仕事を奪うということが喧伝されている。

しかし、米国「WIRED」誌の創刊編集長で、長年テクノロジーの進化について取材してきたケヴィン・ケリー氏は、去年出版した「<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則」の中で、AIやロボットについて「これはマシンとの競争ではない。【中略】 これはマシンと共同して行う競争なのだ。」と記している。

まさに「Creating with Machine」という時代の扉が開かれようとしている。

ファッションを取り巻く世界では今どんなことが起きているのか、そんな時代にデザイナーたちはどんなことを考えてクリエーションを行っているのか、をこれからレポートしていきたい。

PROFILE
小川徹 NHK情報システム局 副部長
1989年NHK入局。ディレクター・プロデューサーとして番組を制作。2012年よりデジタル部門で、ネット同時配信など、次の時代のメディアづくりに携わっている。近年携わった番組に「TOKYO FASHION EXPRESSS」、NHKスペシャル「世界ゲーム革命」、NHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」など。東京コレクションなどを中心に、ファッション・デザインをライフワークとして継続して取材している。

DiFa編集部



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