Special | 2017.09.02
AI時代のクリエーション~ 第2回「ネオ・オートクチュールへ」《前編》小川徹

AI時代のクリエーション~ 第2回「ネオ・オートクチュールへ」《前編》小川徹

PHOTO: ALESSANDRO GAROFALO

Creating with  Machine~AI時代のクリエーション~ 第2回「ネオ・オートクチュールへ」《前編》小川徹

<3Dコンストラクテッドテキスタイル>

2017年7月5日、「ユイマナカザト」がパリ・オートクチュールコレクションで三度目のショーを行った。これまで3Dプリンターなど先端テクノロジーを駆使して製作してきたデザイナーの中里唯馬氏の、現時点での集大成といえるコレクションだ。

今回は、3Dプリンターで服そのものを作るのではなく、3Dプリンターの特性を活かして作ったパーツを布をつなぐ留め金として使った。

服の素材は、四隅に穴のあいた長方形の布片。レーザーカットされた布片を3Dプリンターで作った樹脂の接合パーツで組み合わせ、300~400の布片で1着になる。縫製がない分、細かいダーツやきれいな曲線を作ることができるという。

この接合パーツは、留める生地の厚さによって足の長さを変えて出力することができるため、例えば、デニムとナイロンなど厚さの違う素材を自由に組み合わせることができる。中里氏は、こうした仕組みを「3Dコンストラクテッドテキスタイル」と名付けた。

布片の数を増減させることで着る人の体型の変化に合わせることもできるし、その時の好みで素材を変えて違うテイストに変化させることもできる。また古着のデニムや親戚から譲り受けた着物などからのリメイクも容易になる。

パーツが交換できる服というアイデアは、共通規格のファスナーを備えた服の袖を自由に交換できる「コモンスリーブ」など、これまでも日本でも試みられてきた。

今回の「ユイマナカザト」のコレクションは、先端テクノロジーを使うことで、様々な種類の布片を自在に組み合わせてカスタマイズできる服として形にした。

PHOTO: SHOJI FUJII

<服に新たな“自由”を>

今回のショーを中里氏は「フリーダム」という言葉に託した。

コレクション製作のために参照した時代は1950年代。その直前に発表されたディオールのニュールックに代表されるファッションが花開いた時代でもあり、機械を使った大量生産が急激に伸びていく時代でもあった。

服作りの分野でも、電動ミシンが急速に普及。目に見えるところはミシンで縫い、人の身体に直接触れるところは人が縫うという、テクノロジーと手仕事の融合が顕著になっていった。

今は世界中のあらゆる人が身につけるようになったデニムのジーンズが急速に広まったのもこの時代だった。

中里氏は、ジーンズによって、人種・性別・階級・体型などを超えて、同じ服を着用することが実現したと考えている。つまり、「ジーンズは人類史上初めての差別のない“自由な”服だったのではないか」と。

そして、今回の自身のコレクションを、ジーンズに続く、“新たな自由”を服にもたらす第一歩として製作したという。

 

photo:YASUNARI KIKUMA

<“夢の機械”3Dプリンターとの格闘>

中里氏は、2008年にアントワープ王立芸術アカデミー・ファッション科を卒業。日本に帰国後、フューチャリスティックなコレクションを発表。その一方で、レディ・ガガなどのアーティストの衣装など1点ものの服の仕事も継続してきた。

中里氏が3Dプリンターと出会ったのは2013年のこと。米国ストラタシス社と協業し、「バスケットボールが進化した架空のスポーツのためのウェア」をインスタレーション形式で発表した。当時、世界的なブームとなっていた3Dプリンターで作品を作ったファッションデザイナーとして、話題となった。

その後、中里の元には、様々な企業から3Dプリンターを使った仕事の依頼が殺到する。それらをこなすうちに、中里氏にはある疑問が湧いてくる。

「3Dプリンターを使って、変わった形の服を作ることで、機械のプロモーションにはなった。しかし、それは服を買ってくれる一般の人にとってどんな意味があるのだろうか?」

一方で、3Dプリンター故の製作の難しさにもぶち当たる。

当時、中里氏は、「3Dプリンターは夢の箱で、何でもできると思っていた」と言う。

しかし、3Dプリンターは使いこなすのが非常に難しく、作品を満足のいく形に仕上げるには多大な時間と手間が必要だった。

長年コンビを組んでいる3Dデザイナーが作ったデータであっても、デジタル機器につきもののバグも度々発生し、陶芸家が窯から出してみないと、最終的な色や形がわからないように、でき上がったものがまったく予想外の形状になることも多かった。

さらにコストも非常に高い。現状の3Dプリンターでは、自動車や建築などのような大きなものに使うならコストが見合うが、服つくりにはまだ高くつき過ぎるという。

企業からの資金で実用性の少ない突飛な形の服を作ることはできる。しかし、普通の人にどんな新たな価値を与えることができるのか?これでは既存の製造法でも良いのではないか。果たしてテクノロジーを使う必然性は何なのか?

悩む中、中里氏がたどり着いた答えが、「テクノロジーを使ってオートクチュールを民主化する。」という大きな夢だった。つまりお金持ちに向けてではなく、すべての人に1点物の服を提供するという構想だ。

2016年、中里氏は、パリオートクチュールコレクションに挑戦。日本人デザイナーとして12年ぶりに正式にゲストメンバーに選ばれた。《後編へ続く》

 

DiFa編集部



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