| 2017.10.05
商品選びが無くなれば、ショッピング体験の質は向上する?-しまむらEC参入の事例から

商品選びが無くなれば、ショッピング体験の質は向上する?-しまむらEC参入の事例から

ファッション小売大手のしまむらが、EC事業に参入する。リアル店舗のネットワークをはじめ、独自のリソースを持つしまむらの存在は、利便性や即時性を追求してきた従来のファッションECにとって、新たな息吹をもたらす存在となるかもしれない。

ファッション業界EC化の波としまむらの戦略

ファッションセンターしまむら–しまむら

全国の郊外に衣料品チェーンストアを展開するしまむらが、ネット通販への参入を検討しているという。「EC(電子商取引)研究プロジェクト」を社内で立ち上げ、全国の店舗間で商品を移動する仕組みや、店頭にタブレット端末を設置し品切れ商品などの客注を簡略化するシステムなどについて研究しているという。

しまむらというと、2017年3~5月期連結決算において6期ぶりの減収が発表されたばかり。主力業態である「ファッションセンターしまむら」の売上高が4.7%減少するなど、苦戦を強いられている現状に加え、これまでECとは一定の距離をおいてきただけに、EC化の波に押され…とする論調が多いようだ。

しかし、しまむらがこれまでに取り組んできた巧妙かつ特異な戦略を考え合わせるなら、今回のネット通販事業への参入をそうしたシンプルな筋書きの中に位置付けるには無理があるかもしれない。

「ファッションセンターしまむら」では、例えばおよそ1,000平方メートルの店内に万単位のアイテムをラインナップしている。商品はすべてメーカーからの買付け品で、多品種を各店舗に少量ずつストックするというのが特徴だ。ディスプレイの鮮度を常に高く保つことができるというメリットがある一方、売り切れ商品の追加発注を行わないため、人気商品については機会損失が避けられない。そのデメリットを解消するため、自社物流システムを活用することで低コストでの店舗間の商品移動を可能にし、在庫の回転率を上げてきた。

そのしまむらが、将来的にECサイトを導入するというのだから、単に時代の流れに合わせてやむを得ず、というのはどこかしっくりこない。むしろ、巨大な店舗ネットワークと充実した商品ラインナップ、自社物流システムをフル活用した、しまむらならではのショッピング体験を可能にする独自の戦略を目指してのことと考える方が自然だろう。

しまむらが提供するショッピング体験

みんなの『#しまパト』活動報告–しまむら

しまむらの商品ラインナップは、種類がきわめて豊富であることや低価格であるのが特徴だが、各メーカー独自の企画によるデザイン性の高さも持ち味の一つだ。それが功を奏してか、全身をしまむらの商品でコーディネートする「しまラー」と呼ばれる若いファン層が形成されている。SNSが普及して以降は、膨大な商品の中から好みのものやおしゃれなものを探し出し、その画像を投稿して商品を発見した喜びを共有する「しまパト(しまむらパトロール)」も定着している。

しまむらでは、Instagramの公式アカウントを開設。人気の投稿を一覧できる「みんなの『#しまパト』活動報告」としてウェブサイトも設けている。たまたまSNSから流れてきた商品の画像に目が止まったり、店頭で思わぬ掘り出し物に出会ったりという具合に、半ばアクシデント的に宝物を見つけて、それをコミュニティ内で共有するという一連のショッピング体験が習慣化していると言えるだろう。

しかも、Instagram上で消費者がインフルエンサーとして、アンバサダーとして立ち回ることで、新たな消費が生み出されるという好循環が成立している。コミュニティ内で情報が共有されることで、ショッピング体験もまた連鎖していくというわけだ。

商品選びに迷わないのが良いファッションEC?

Shutterstock

リアル店舗にはないファッションECにおけるメリットの一つは、商品の選択肢を広げ、それによってショッピング体験を豊かにすることにあるはずだ。ところが、効率的でスムーズな買い物を促すことに力を傾けすぎてしまうと、結果的に消費者の購買行動を狭め、選択の余地を減らすことにもなりかねない。ストレスなく気楽に買い物できること自体は歓迎されるべきだ。しかし、これによってワクワクするようなショッピング体験が失われてしまってはもったいない。

仮に、しまむらの膨大な商品ラインナップが、ウェブ上にそのままディスプレイされたとしよう。EC化によって単に効率化が追求されるだけなら、少なくとも従来の顧客にとって、ほとんど意味がないと言えそうだ。彼・彼女らの多くは、店舗に足を運ぶことを手間だとは感じていないし、頻繁に刷新される商品と実際に出会うことでしか味わえない、臨場感あふれるショッピング体験を目的としている。スケールメリットと豊富な商品ラインナップ、徹底した在庫管理システムを有するしまむらのEC戦略は、あくまでリアル店舗を主体とした、これまで培ってきた特有のショッピング体験をさらに拡張するようなものであってこそ意味をなすのだ。

商品選びに悩まなくてすむこと、効率よく買い物ができることは、ファッションECにとってどれほど重要なのか?ファッションECが、消費者にとってスムーズで効率の良い買い物を可能にするための装置にとどまらず、娯楽やレクリエーションとしての存在感をも発揮することが求められるとしたら、しまむらのEC参入は、それらの答えを見つけるための重要な手がかりになるかもしれない。

しまむら

https://www.shimamura.gr.jp/shimamura/

◆こちらは「FASHION EC Lab」編集部からの寄稿記事です。

Cover photo by Shutterstock

DiFa編集部



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