Topics | 2017.11.14
Creating with  Machine ~AI時代のクリエーション~ 第3回「巨大テック企業アマゾンと東京コレクション」 小川徹

Creating with Machine ~AI時代のクリエーション~ 第3回「巨大テック企業アマゾンと東京コレクション」 小川徹

コレクション会場と売り場の接近

2017年10月16日から22日まで開催された2018年春夏東京コレクションでは、前シーズン東京でも現れたSee Now Buy Nowの流れがより顕著になった。シーナウトウキョウという今年6月にできたばかりのベンチャー企業は、3つの若手ブランド「ケイスケヨシダ」「アキコアオキ」「モト ゴー」のショーをサポートし、サイト上で予約販売を行った。

このほかにも、SPA(製造小売)のアダストリアが展開する「ハレ」と「グローバルワーク」とトウキョウベースが展開する「ユナイテッド トウキョウ」がショー後の受注会やサイトで関連アイテムをすぐ購入できるようにした。
ショーの受付を済ませると会場に入る前に、ブランド関連商品の販売コーナーが設置されているという前代未聞のショーもあった。ブランドもショーに顧客を呼び、終わった後には受注会が開催されていた。

これまでも顧客を招待し、ショー後に受注会を行うブランドはあったが、今季はショーと売り場の接近が一挙に進んだファッションウィークとなった。

「タカヒロミヤシタ・ザ・ソロイスト」
「タカヒロミヤシタ・ザ・ソロイスト」

アマゾンによる支援の拡大と深化

既に大きく伝えられているが、今季の最大の話題は何といってもファッションウィークの冠スポンサーのアマゾンジャパンが主催するアットトーキョーだった。

これまで日本でショーを行ったことのなかった「サカイ」と15年ぶりの「アンダーカバー」の合同ショー、12年ぶりに日本でショーを開催した「トーガ」。「タカヒロミヤシタ・ザ・ソロイスト」「ブラックアイパッチ」は、ブランド初めてのショーを開催した。

ショーの会場もファッションウィークのメイン会場の渋谷ヒカリエや表参道ヒルズではなく、それぞれブランドの個性を活かした場所だった。
「サカイ」と「アンダーカバー」は信濃町の聖徳記念絵画館前の1000人規模が収容できる巨大特設テント。「タカヒロミヤシタ・ザ・ソロイスト」は秩父宮ラグビー場。

「トーガ」ショーの会場

「トーガ」は六本木の国立新美術館の吹き抜けのロビーをランウェイに。エスカレーターをモデルが降りてくる演出が非日常感を高めていた。

「ブラックアイパッチ」
「ブラックアイパッチ」

そして、「ブラックアイパッチ」は渋谷の観世能楽堂跡地。元の能楽堂の舞台に大型バイクが走りまわり、スケボーが駆け巡る中で、モデルが歩くという衝撃的なショーだった。

参加するブランドの知名度だけでなく、通常の東京のファッションショーの規模を超えた大掛かりな会場構成・演出にも、アマゾンが巨額の資金をかけ、今回のファッションウィークに臨んだことが伺われる。

ファッションウィーク期間中に開催されるアマゾン独自のイベントでは、最初の2017年春夏シーズンには「アマゾンファッション01」として当連載で前回取り上げた「ユイマナカザト」をサポートした。先シーズンからは「アットトウキョウ」と名前を変えて、自社のECサイト上で一部の商品を購入できるようなシステムを作り、3ブランドをサポート。そして今季は、パリやロンドンなど海外に発表の場を移し日本ではもうショーを見ることができないと思われていたブランドやこれまでショーを開催してこなかった5つのブランドをサポートした。

「トーガ」

特筆すべきは、今回のアットトウキョウに、全国でファッションを学ぶ学生数百人を招待したことだ。ショーの裏方でも学生たちが手伝った。バイスプレジデントでファッション事業部門のジェームズ・ピータース事業本部長いわく「学生たちに、日本のファッションとファッションビジネスの現在の姿を見てもらいたいと考えた」。その中から将来のファッションを担う人材が出てきてほしいという願いがあるそうだ。

「サカイ」と「アンダーカバー」の合同ショーの会場で話を聞いた名古屋のファッション学校の学生は、このショーを見ることができて「生きていて良かった」とまで感じたという。

今回のアットトウキョウが、日本のファッションの一つの起爆剤になったことは間違いがない。今回参加したデザイナーもアマゾンからの呼びかけがなければ、東京でショーをやることは考えなかったと語っている。スポンサーとなった当初、時間をかけて日本のファッション界に参入していきたいとしていたアマゾンが一気に「本気」を出してきたと感じられた。

「サカイ」
「アンダーカバー」

ターゲットはすべての商品・すべての顧客

アマゾンジャパンのジェームズ・ピータース氏は、顧客が自分でセレクトし、自分のスタイルを作り上げることをサポートするため、すでに1000を超えるブランドを扱っており、今後さらに多くのブランドを扱い、様々な顧客の利便性を高めたいと語る。アットトウキョウでサポートしているブランドは、それまでアマゾンでは扱いがなかったブランドばかり。ショーをきっかけにして、一部の商品とはいえ扱いが可能になった。今回の「サカイ」と「アンダーカバー」の限定商品は、瞬時に完売したという。

アットトウキョウのサイトには、アマゾンの扱っている商品の中で、ショーを行ったデザイナーやインフルエンサーのお気に入りのものを紹介するコーナー「マイアマゾン」があり、今季さらに充実した。

マイアマゾン–ウェブサイト

デザイナーがインスパイアされている本や、リラックスする時に飲むお茶やお菓子など、ブランドのファン垂涎のものが紹介されている。ブランドのファンにとっては、デザイナーの人柄や世界観に近づく貴重な機会であると共に、ファッション好きの人がデザイナーを通じて他の商品にも目を向ける機会ともなる。

「あらゆる顧客に、あらゆる商品の中から選んでもらう」このことはファッションに限らずアマゾン全体が目指していることでもある。

現在のアマゾンのECサイトでは、本なら本、家具なら家具といった商品のジャンル内でのレコメンドが行われているが、アマゾンで扱っているあらゆる商品を横断してレコメンドできるようになれば、さらにその総合力は高まるに違いない。そのことをピータース氏にぶつけてみると、「現在アマゾン社内で頭の良い人たちが取り組んでいると思う」とのことだ。

テクノロジーでファッションに注力

ファッションはアマゾンの中でも急成長を遂げている分野だといい、今年になって新たなサービスを次々に発表している。

エコールック

アメリカで大きな注目を集め、日本でも今月発売されたAIスピーカー「アマゾンエコー」。
今年4月、アメリカでは、カメラのついた機能拡張版「エコールック」が発表され、登録をしてアマゾンから招待された人に対しての販売が始まっている。(日本での発売は未定)
ユーザの全身画像を毎日記録し、AIが似合う服を提案してくれるという。そして6月には購入前の服を自宅で試着できるサービス「プライムワードローブ」を発表。アメリカでは、アマゾンが企画販売するプライベートブランド(PB)も拡大している。

つまり、お客の毎日の生活から似合う服を提案し、それを試着してもらい、買ってもらうというサイクルができようとしているのだ。

これを後押しするのが、AI開発で世界のトップレベルをいくテクノロジーだ。
筆者が昨年11月にアメリカラスベガスで参加したアマゾンのクラウドサービス・アマゾンウェブサービス(AWS)の開発者向けのイベントでは、発売されたばかりの「アマゾンエコー」を参加者全員に無料で配り使ってもらっていた。開発者向けのワークショップも多数開かれていて、いずれも超満員だった。

今年のイベントの目玉の一つはディープラーニングサミットと銘打ったカンファレンスで、AIのエキスパートが集結する。AIに関するセッションやワークショップも数多く開催される。そんな中から新たなファッション関連のサービスも生まれてくるかもしれない。

トーガ(フィナーレ)
「サカイ」「アンダーカバー」合同ショー

ファッションの新しいハブになれるのか

アットトウキョウのウェブサイトにアットトウキョウの目指すものについての記述がある。

「次世代のユースたちが、自分たちもここで何かしたいと思えるような、刺激的な体験を仕掛けること。何が次に起きるのか?それを期待したくなる、記憶に刻まれる瞬間を残すこと。」……今回のアットトウキョウでは、それは実現できたと思う。しかし「東京に集まるすべてのひとたちが、参加していると感じられる場所を作ること」、(ファッション以外のクリエーターとそのフォロワーも巻き込み、)「新しいコミュニケーションの形を作ること」「そのすべてを担うファッションの新しいハブになる」というには、まだまだだ。

1985年にデザイナーたち自身によって始まった東京コレクション。2005年に経産省がスポンサーとなり、2011年からはベンツ、そして2016年からアマゾンへと移り変わった。
テクノロジー企業の支援は日本のファッション界に刺激を与えようとしている。アマゾンという世界をリードするテック企業が、ファッションにできることはまだあるはずだ。

そして、テクノロジーを武器にファッション界に挑むアマゾン以外のベンチャー企業たちにも、ファッションをより面白くし、より身近にしてくれるチャンスが広がっている。

PROFILE
小川徹 NHK情報システム局 副部長
1989年NHK入局。ディレクター・プロデューサーとして番組を制作。2013 年よりデジタル・IT部門で、ネット同時配信など、次の時代のメディアづくりに携わっている。近年携わった番組に「TOKYO FASHION EXPRESSS」、NHKスペシャル「世界ゲーム革命」、NHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」など。東京コレクションを中心に、ファッション・デザインをライフワークとして継続して取材している。

写真提供:Amazon Fashion

Cover photo by Amazon Fashion提供

DiFa編集部



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