Special | 2017.11.23
Creating with  Machine ~AI時代のクリエーション~ 第4回「想像力と創造力の拡張へ アンリアレイジの格闘」前編 小川徹

Creating with  Machine ~AI時代のクリエーション~ 第4回「想像力と創造力の拡張へ アンリアレイジの格闘」前編 小川徹

テクノロジーを活用した実験的な服作りで知られる「アンリアレイジ」の展覧会「A LIGHT UN LIGHT」が11月26日まで東京・池袋のパルコミュージアムで開催中だ。

これは2015年春夏シーズンにパリに発表の場を移して以降のコレクションの中から、「光」をテーマにした作品を集めたもの。展示には、これまで何度も協業しているサカナクションの山口一郎氏とライゾマティクスリサーチも協力し、単に服を見るのではなく、服を感じることのできる体験型の興味深い展覧会になっている。

この展覧会で展示されているのは、いずれも様々なテクノロジーを駆使した作品群だ。

デザイナーの森永邦彦氏には、これまで何度かロングインタビューをしているが、今彼がテクノロジーについてどんなことを考えているのか知りたいと改めて思い、話を聞いた。

自分と異なる知覚による服作り

インタビューの最初に森永氏が、ここ1,2年の服づくりのキーワードとして、まず挙げたのが「環世界」という耳慣れない言葉だった。これは生物学の概念で、動物には、それぞれの種ごとの知覚している世界があり、その世界に基づき行動しているという考え。つまり、昆虫には昆虫の見えている世界、鳥には鳥の世界があるというものだ。

頭の中で「?」が湧いてくる。
しかし、森永氏が次に挙げた例で、少し腑に落ちた。今年10月に開催されたヨコハマ・パラトリエンナーレの展示のために製作した「視覚がない世界を感じてもらうための服」の経験だ。

ヨコハマ・パラトリエンナーレ「エコー」

これは、服につけられたセンサーが信号を発し、周りの環境に反射してエコーとして帰ってくる振動を、服にフィードバックするというもの。参加者は視覚や聴覚ではなく、振動で空間を感じる。ライゾマティクスリサーチとダイアローグ・イン・ザ・ダークとのプロジェクトだ。

この服の制作のために森永氏は、視覚のない世界を研究した。視覚がなければ服の色や模様はあまり意識されない。しかし、服にかかる重力や動くことで生まれるしわなどにはとても敏感となる。そこで新しい表現が見えてくるのではないかと感じたという。

もう一つ彼が挙げたのが、今年、「ケイスケカンダ」の神田恵介氏と設立した企画会社「あの服」での子ども服のデザインの経験だ。子どもたちと向き合った森永氏は、子ども服の難しさを実感したという。これまで大人向けの服では当たり前に表現してきた「カッコよさ」や「可愛らしさ」が子どもたちには通用しなかった。「子どもたちの心をつかむのはパリの有名ショップのバイヤーの心をつかむより難しい。」
しかし、子どもたちが何を面白いと思うのかを突き詰め、真摯にクリエーションを行ってみると目を輝かせたという。

ここまで聞いて思い当たったのは、今回の展覧会でも展示されている2015年秋冬のコレクションだ。「LIGHT」と名付けられたこのシーズンに発表されたのは、真っ黒の服。
しかし、ブラックライトで紫外線を当てるとカラフルな模様が浮き上がる、これは紫外線を見ることができるモンシロチョウなどの蝶から見た世界なのではないか。

自分と違う知覚を意識すること。これは動物だけに限らないかもしれない。例えばロボットやAIが知覚する世界を使って服を作ったらどうなるか。想像力は広がっていく。

紫外線で色が変わる服

テクノロジーによる服作りの拡張

森永氏が「環世界」という言葉に注目するようになったのは、パリコレに進出してからだという。それまで日本で服が好きな人に向けて作ってきたブランドが、世界の多様な人たちを相手に服つくりを始めることになった時、日本でのファッションの感じ方と違う形でのファッションを考えないとだめだと思ったという。

必要なのは自分の知覚を広げたり今までにない感じ方を与えてくれること。そのことによって、物の見方が変わり、服の作り方も変わっていくのではないか。
もしかしたら洋服の伝統の短い日本人が世界のファッション界で勝負していくための武器になるかもしれない。

「西洋が培ってきたモードの伝統の中での針の穴を通すような戦いに日本人が挑むには、これまでと違うファッションの概念が必要だ」と考えたのだ。

森永氏にとって、そのための重要な武器がテクノロジーだ。
まだ誰も使っていないテクノロジーを使って服を作ることで、これまでになかった服に対する感じ方が生まれ、まったく新しい服を作ることができるのではないか。

光の柄をまとう服

テクノロジーを使って感情を揺り動かす

一方で森永氏はテクノロジーという言葉の危うさも自覚している。「便利」とか「未来的」というイメージにとどまるのではなくその対極にある、人の感情を揺さぶるようにならなければならないと肝に銘じているという。

こんな考えに行きついたきっかけを聞くと、まだ東京で発表していた2013-14年秋冬シーズンのことを語ってくれた。「COLOR」と題されたこのコレクションでは、光に当たると色が変わるフォトクロミック分子を使って服を作った。ショーのラスト、白い服を着たモデルがランウェイ中央のターンテーブルに立つと、強いライトが浴びせられ、服に少しずつ彩りが加わっていく。

筆者も会場で見ていたが、服の色が変わった瞬間、会場の空気が変化し、どよめきが生まれたのを覚えている。服の色がゆっくり変わっていく、ただそれだけなのに、何か人間的な感情を呼び起こされた気がした。

この時、森永氏は、テクノロジーを使って人の心を揺り動かす服を作ることができると確信したという。以後、アンリアレイジはテクノロジーを使ったコレクションをより積極的に発表していく。

「サイズが変わる服」

「温度調整ができる服」

「影を記憶する服」

「紫外線で色が浮かぶ服」

「フラッシュ撮影すると模様が浮き出る服」

「暗号が埋め込まれた服」

「服の声が聞こえてくる服」

「年輪を宿す服」

「力が光に変わる服」

森永氏が目指してきたのは、テクノロジーを使って、これまでの洋服になかったようなユーモア、愛情、はかなさなどを表現することだ。例えば、服の色が変わっていくのが、色が変わらなくなると悲しくなり、そのことによって服に愛情が生まれる。例えば、服の中に声や聴覚が宿ることでもっと引き付けられたりするというように。

それは、視覚に偏りがちなファッションの世界をもっと多様な感覚に開放するという意味もある。現在はまだファッションと認識されていないものの中にも、ファッションの領域があるはずだ。それを自分たちの作るものを通じて粘り強く証明したい。この日のインタビューの最後、森永氏はそう語った。

力が光に変わる服

テクノロジーの進化とクリエイティビティ

科学の進歩によって、人間の認知の仕組みや、視覚と触覚、視覚と臭覚といった感覚のつながりも解明されてきた。この成果を利用して、VRなどの先端テクノロジーは、人工的に様々な感覚を作り出すことを実現しつつある。森永氏が目指す世界の土台ができつつあるのだ。

想像力を拡張し、創造力を高めること。それは、古今東西の表現者たちが格闘してきたことだ。自らの創作に真摯に向き合うクリエーターに共通するこの課題に、森永氏も自分なりの回答を探そうとしている。

後編では、テクノロジーという武器を森永氏がどのように実際のコレクションに落とし込んでいったのかを具体的に見ていく。

PROFILE
小川徹 NHK情報システム局 副部長
1989年NHK入局。2007年、日本のファッションを海外に紹介する「TOKYO FASHION EXPRESSS」をプロデューサーとして立上げるなど、ファッション・デザインをライフワークとして取材している。2015年のNHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」では、アンリアレイジ・サカナクション・ライゾマティクスのコラボレーションなどを担当。現在はデジタル・IT部門で、ネット同時配信など、次の時代のメディアづくりに携わっている。

DiFa編集部



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