Special | 2018.01.25
Creating with  Machine ~AI時代のクリエーション~ 第4回「想像力と創造力の拡張へ アンリアレイジの格闘」後編 小川徹

Creating with Machine ~AI時代のクリエーション~ 第4回「想像力と創造力の拡張へ アンリアレイジの格闘」後編 小川徹

<機械と布の格闘>

前編で見たようにパリに発表の場を移してからのアンリアレイジは、テクノロジーを積極的に活用したコレクションを続けてきた。

2017年2月にパリで発表されたアンリアレイジの2017年春夏コレクション「ROLL」。ショーの様子をパリからのネット中継で見ていた私は、これまでのテクノロジーの使い方と違うステージに入ったのではないかと感じた。

後の展示会でデザイナーの森永邦彦氏に聞いた「服を見せるためのテクノロジー」から「服を作るためのテクノロジー」へとテクノロジーの使い方を変えたという言葉がずっと頭に残っていて、その意味を確かめたいと思っていた。

「ROLL」は服の始まりである布のロールに注目したコレクション。このコレクションで森永はデニム生地のロールを、先端にドリルを装着した工業用のロボットアームを使って彫刻のように削り出して服を作るというこれまで誰もやったことのない手法にチャレンジした。

発想のきっかけは、ロールが木の年輪のように感じられたこと。であれば丸太を削って彫刻のように服を作ることができるのではないかとひらめいたという。

しかしコレクションの製作は最初から暗礁に乗り上げた。

ロボットアームで布を削るという前代未聞の作業を引き受けてくれるところが見つからなかったのだ。日本中を探し回り、結局大阪枚方市にある会社が引き受けてくれた。

作業を始めてみると、更に大変なことが待っていた。

通常、鉄などを削るために使われるロボットアームで布を切ると、ドリルに巻き付いたり、摩擦で煙が出たりしてなかなか進まないのだ。

それでもロボットアームは何度も何度も同じ個所を削り、止まりそうになりながらもひたすら布と格闘を続ける。

布がからまり止まってしまったら冷却し、こびりついた布をカッターナイフで取り除く。

こうした作業の繰り返し。ロボットアームと布の格闘は丸5日間続いた。

この作業に立ち会った森永氏は、ロボットアームが煙を出し壊れそうになりながらも夜通し布を削り続ける姿に心を大きく揺り動かされたという。

それは、あたかも人間の職人が全身を使って作業しているようだった。森永氏は「機械の肉体性を感じた。」という。

当初は、プログラミングされたデータに基づいてロボットアームが切削するという最新のテクノロジーを使った効率的な作業だと思っていた。しかし、その対極にある「肉体」や「感情」といった原初的な感覚を呼び覚ますものだったのだ。

この経験が、森永氏のテクノロジーへの向き合い方を変えたという。

<コンピューテーショナルデザインによる服作り>

「ROLL」でもうひとつ特筆すべきなのは、コンピュータを使った服づくりの新たな可能性だ。

通常、服づくりは布のロールから始まる。それを一旦平面の型紙にして、布を切り服に組み上げる。つまり3Dから2Dへ。また3Dへと布は形状を変えることで服になる。

今回森永氏がチャレンジしたのは、この服つくりの始まりと終わりは変えずに、その間をまったく変えてみるという手法だった。

「ROLL」のショーでは、同じコンセプトで作り方を違えた服を最初と最後に配置した。
最初は上で見たデニムのロールを樹脂で固めた後、そこから服を彫刻のようにロボットアームで削り出す手法だ。(図参照)

画像クレジット:noiz

まず、1枚の布をらせん状に巻き付けたロールの中にコンピュータで仮想の服をデザインする。次に、ロボットアームで仮想の服を削り出す。

できあがった服の表面には、ロールの等高線や年輪のような模様が浮き上がっている。

この模様を、彫刻家の名和晃平氏がさらに手で削って仕上げ、服は完成した。

ショーの最後に登場したルックは、デニムのロールの中に想定した仮想の服をデジタル上で積層データ化し、それを軸のまわりに1枚1枚積層していく手法で生まれた。(図参照)

画像クレジット:noiz

この手法では、まず3Dデータ上でロール状の布と仮想の服との接線を地形図のように計算し等高線の集合を求める。
次にデータ上でロール状に巻き付けた布をたまねぎの皮を1枚1枚はがしていくように二次元に展開し、布と一緒に展開された交線データを一枚ずつレーザーカットする。

レーザーカットされた布をふたたびたまねぎの皮を巻き付けていくように、1枚1枚布の厚さや正確な位置に気を付けながら手作業で貼り付けていく。
最後に切れ目にそって服になる部分以外を剥がし、服が完成する。 この手法でも服の表面には布による等高線や年輪のような模様が浮かび上がる。

原理としては同じ作り方だが、削り出すものと積層していくものとで見え方も質感も全く異なる「服」ができあがる。

この2つの作品のデジタル造形などで協力したのが建築設計事務所ノイズだった。ノイズはコンピュータを使って設計するのではなく、アルゴリズムを作り、その中でコンピュータ自身に設計をさせる「コンピュテーショナルデザイン」という手法を使ったデザインのトップランナーだ。

代表の豊田氏は、ショーのラストに登場した積層による手法について、「コンピュータでデザインしたデータを布に落とし込み、更に、手作業を加えるということの苦労が大きかった。」と語る。

つまり、デジタルデータは物理的な特性を持たないが、布には厚みがあり、わずかながらも厚い部分と薄い部分がある。

さらに、手作業では、均一に貼れず、どうしてもずれが生じる。接着剤の厚みも均一にはならない。更に温度や湿度などによっても微妙な仕上がりの差ができてしまう。

こうしたずれが積み重なり、コンピュータで計算した通りの形にはならないのだ。

それは、物理的な特性を持たないデジタルデータを実際の物に落とし込む時の宿命。つまり、コンピュテーショナルデザインとデジタルファブリケーションがつながる時の課題の一つだという。

アンリアレイジとノイズのメンバーは、何度もトライを重ね、微妙な誤差を計算し続けることで、服は完成させた。

<コンピュータが生み出す予期せぬ美>

この2つの手法で出来上がった服を見て森永氏は驚いた。「これまで何度もレーザーカットでやっていたようなフューチャリスティックなものになるかと思ったら、まったく逆の縄文時代のようなすごく土着的なものが生まれてきた。」

しかしそれは手仕事ではなく、最新のテクノロジーを駆使して作られたものだった。「この手法でこれまで見たことのない洋服ができるのではないか」と確信したという。

建築の分野でコンピュテーショナルデザインを実践する豊田氏は、こうしたコンピュータが生み出す「予期せぬ美」を積極的に利用しようとしている。

コンピュータでデザインを続けていくと、本来データ通りになるはずなのに予期しない形になることがあるという。それも予想していたのとは別の箇所に出るのだという。「1+1が3になる瞬間が混ざりこんでくる」と豊田氏は表現する。

人間の情報処理能力を超えたコンピュータの生み出す予期せぬ結果を、単なる「エラーやバグ」ではなく、「新たな美」としてとらえられないかというのである。

これまで建築の世界では100%人間の意志でコントロールしてデザインしてきたが、そこにコンピュータによる偶然性を取り入れようとしているのだ。

現在豊田氏は、予期せぬ美の発生のメカニズムを解明し、それを少しでもコントロールするためのチャレンジを続けている。

豊田氏や森永氏はまだAIを本格的に利用しているわけではないが、「ROLL」での取り組みは、AI時代のクリエーション、AIと共創する時代に向けての重要な示唆を与えてくれるものだった。

<イノベーションは異質なものの組み合わせから生まれる>

アンリアレイジがコレクションで活用するテクノロジーの多くは、ファッション以外の領域で生み出されたものだ。

しかし、これまでファッションとは接点がなかった企業との協業には困難も付きまとう。

2017年9月に発表された最新のコレクション「POWER」では、「力を見る 力を着る」をテーマにして、力の加わった部分が光る「応力発光体」という物質を使った服を発表した。

テーマを際立たせるために、ショーの後半では暗転したランウェイで、モデルが腕の曲げ伸ばしや屈伸など様々な動きをして、服に力がかかった部分を光らせるという演出が行われた。

コレクションに使われた応力発光体は、橋やトンネルなどの構造物の検査のために使う物質。これを服を染めるための顔料にしたのが特殊印刷メーカーのヤマックスだ。

担当の松本浩伸氏は、今回の協業を「ゴールまでの距離も、行き方も、ペース配分もわからない中での不安な仕事だった。」と振り返る。

最大の課題は、通常はコンクリートや鉄などに使う応力発光体を布に使うことの難しさだった。つまり、応力発光体の分量を増やすと光る力は強くなるが、布の柔軟性や耐久性を減らすことになる。一方で、服としての性能を高めようとすると今度は光が弱くなるというジレンマだ。

松本氏たちはショーの直前まで応力発光体の配合を変えて何度も実験を繰り返すことで乗り越えたという。

もう一つ課題となるのがファッション業界と他の業界とのスピード感の違いだ。

半年毎にコレクションを発表し、目まぐるしく移り変わるファッション(モード)の世界。半年前にカッコよいとされた服が、半年経つとそうは見えない。森永氏は、このうつろいやすさとスピード感がファッションの醍醐味だと語る。

一方で、例えば建築は10年単位のプロジェクトが当たり前の世界だ。「ROLL」のコレクションでコンピュテーショナルデザインを担当した豊田氏は、この時間感覚の違いに大きく戸惑ったという。

今後より多くの企業と協業していくには、このギャップを埋めていく必要があるかもしれないが、私には、森永氏がこのスピード感の違いをあえて逆手に取っているようにも感じられる。

つまり、半年ごとのコレクションで異分野の企業と組み、新たな素材や製法などにチャレンジしていく。その中から芽がありそうなものは、企業との継続的な関係を続け、育てていく。その成果を狭義のファッションの領域だけではなく、コラボ商品として車や時計など別の領域へと広げていく。

こうした協業は相手の企業にも確実に影響を与えていく。

応力発光体を開発し原料を提供した堺化学工業の山崎真平氏は、今回の取り組みを通じて、これまで主として社会インフラの分野で使われてきた応力発光体を、ショービジネスなどエンターテイメントの分野に使えないかと考えるようになったという。

森永氏は、こうした流れをフルスピードで続けていくことで、服作りの拡張を目指しているのではないか。

イノベーションは異質なものの組み合わせから生まれる。しかし、一方で、たくさんのトライアルからしか生まれないといわれるからだ。

前編で見たようなテクノロジーを使った想像力の拡張、そして異分野のテクノロジーを服作りに導入することでの創造力の拡張。

アンリアレイジのこうした取り組みを通じて、日本発の服つくりのイノベーションが実現するのか、今後も注目していきたい。

PROFILE
小川徹 NHK情報システム局 副部長
1989年NHK入局。2007年、日本のファッションを海外に紹介する「TOKYO FASHION EXPRESSS」をプロデューサーとして立上げるなど、ファッション・デザインをライフワークとして取材している。2015年のNHKスペシャル「NEXT WORLD 私たちの未来」では、アンリアレイジ・サカナクション・ライゾマティクスのコラボレーションなどを担当。現在はデジタル・IT部門で、ネット同時配信など、次の時代のメディアづくりに携わっている。

前編はこちらから

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