「インタラクティブ」と共に始動した2018年SXSW
前回の記事「彼の地オースティン」では、オースティンという土地とSXSWというイベントの密接な関係、また、成り立ちの背後にある歴史について紹介しましたが、今回はもう少しイベントの実情に迫りたいと思います。

SXSWはインタラクティブ、フィルム、ミュージックと大きく分けて3種のコンテンツを、エクスポやカンファレンスといった様々な形で提供するイベントです。今年は下記のスケジュールでイベントが開催され、インタラクティブでは2018年3月9日~15日までのSXSW前半期にメインコンテンツを披露しました。登壇者の多くが、このインタラクティブに関係しています。

前半期部分にピークを迎えるインタラクティブは、IoTを主とする先端テクノロジーと触れ合える場です。日本からはパナソニックが飲食店に向けたIoTデバイスを考案したものを、レストラン全体を使いデモを行い、話題を呼びました。
詳しくはこちらから↓
https://twitter.com/Panasonic_info/status/985746250917203968
https://twitter.com/Ronald_vanLoon/status/985976876433793025
https://news.panasonic.com/jp/topics/159095.html
数多の「インタラクティブ」イベントが呼び寄せる、様々な人々
ここインタラクティブは多くの企業が、“今後、事業のいかなる側面に、どのような革新や技術が求められるのか、またどの企業と新しくパートナーシップを組むべきか”を探りにくる場。それに向け世界中の企業、ベンチャー、クリエイターがブースを設けます。例えばコンサルティングファームとして知られる企業のアクセンチュアは「デジタル・トランスフォアメーション」を謳ったイベントを2018年3月9〜12日にかけて主催していました。
詳しくはこちらから↓
https://www.accenture.com/us-en/event-accenture-interactive-sxsw
この動画では『New York Times』 を始めとする様々な企業がこのアクセンチュアのイベントに参加し、 事業のデジタル化に注力する理由と方法を簡潔に語っていますのでご参考までに。
同時に、一般の観光客や家族連れも楽しむことのできる見所も豊富です。例えばライブハウスが賑わうレイニー・ストリートの一角では自称Megatronという名前のヒッピー男性が、私を日本人だとは知らずに、パナソニックハウスの「おにぎりマシン」がどれほどすごいか語ってきたこともありました。「私、実は日本人!おにぎり、主食!」とパナソニックの功績に便乗。それくらい、これらのブースは視察に訪れる企業からエンドユーザーまでを隈なく魅了するコンテンツで溢れかえっています。
ちなみにMegatronは「10万円のパスは、もはや安い。」と言いながら、Complimentary Food(無料のカクテルや食事が提供されるブース)について知っている情報を惜しげも無く全て教えてくれました。飲食を含めたおもてなしインタラクションまで重視されているのがSXSW。先端テクノロジーの祭典と聞くと身構えるかもしれませんが、インタラクティブ、ワンデー・パスも販売されているので、家族で1日楽しんでみるのも良いかもしれません。実際会場は老若男女で賑わっています。今後の記事では、その中でも満足度の高かったものを紹介するので、お楽しみに。
大企業が街中で開催するイベントの他に、スタートアップや学生プロジェクトを含めた恒例の大見本市(トレードショー)が、オースティン・コンベンションセンターで開催されます。見逃した私は、訪れた人々のTwitter、また2018年4月17日 にロボスタに投稿された、ロボットコンサルティング会社・アステラテックの小野哲晴さんの記事を楽しく読ませていただきました。動画や写真が多く、市内の様子を含め非常に分かりやすいので、是非ご覧になってみてください。
https://robotstart.info/2018/04/17/sxsw2018.html
このようにオースティン・コンベンションセンターという施設を中心に、ホテルや古民家など、オースティンの市街地の様々な施設を活用し、街全体で広く、広く、とても広く展示が行われています。日差しが照りつける中、完全に服装を誤った私はニットで町中を走り回っていました。近い将来、間違いなく、セグウェイがこのイベントに導入されるでしょう。でないと脱水症状になるな、と思いました。
最先端テクノロジーと共に第一線で活躍する人々の話を間近で聞くことができる、パネルディスカッション
最後に、インタラクティブ期間中の興味深いと思われたカンファレンスをここで1つ紹介したいと思います。それはSXSWの識者にオススメされて参加した”Ethics in VR/AR Journalisim”というパネル。
・映像作家Jean Yves Chainon
・Journalism 360のディレクターLaura Hertzfeld、
・Digital Video のディレクターCarla Borras
・そしてマルチメディア・ジャーナリストのLakshmiSarah
が登壇したこのパネルは、VR/ARがジャーナリズムに用いられる世の中で、求められる倫理基準とは何か考える1時間でした。
VR/ARがジャーナリズムに用いられる世の中で、求められる倫理基準とは?
問題喚起は大きく分けてふたつ。第一に情報操作の可能性がこれまでになく高まっていることがあります。そして第二に、AR/VRを介して誰が、誰に、何を伝えるか、改めて考える理由がありました。
第一の課題の導入にはphotogrammetry、360 、 CGI、 VRなど、映像技術には様々な種類があることを説明することから始まり、複数の例がスライドに映し出されました。登壇者らがクイズ形式で一見似たような映像・画像に一体何の技術が応用されているか聴衆に尋ねます。すると、これがなかなか当たらない。その理由は、360 、CGI、 VRの複数を組み合わせた場合であることが多いためです。一般人にはphotogrammetry、360、 CGI、 VRの細かい役割分担を把握し、さらに見分けることは極めて困難であることがここからわかります。

基本的に、フォトジャーナリズム、ドキュメンタリージャーナリズム、プリント(紙面)ジャーナリズムにおけるモラルはさほど異なることはないと、映像ディレクターとして活躍するBorrasが説明。それは例えば、公平であるか、語弊がないか、視聴者をミスリードしていないか、などの基本的な観点ですが、現在、報道写真においてVRが使用されることで、複雑な難点が増えているそうです。
例えばハリケーン災害のあった写真において、被害を甚大に見せるため、そこにはなかったはずの木が加えられる。というような、VRが生まれる前には派生することのなかった過剰演出がニュース報道で行われてしまっていることを、スライドに映し出された災害映像を例に説明しました。
そして第二に、報道の機会、という視座からAR/VRのモラルが問われると考えられます。大掛かりな器具や高価な備品を伴うAR/VRクリエイションを可能にするスタジオはまだわずかなため、放映できる内容は限られており、その取捨選択をどう行うか、という点に置いてもモラルが問われます。現在のところは、平等に、誰もがAR/VRメディアを世に放つことができる訳ではない。また、誰もがこれを受信できる訳ではないゆえ教育の現場における普及をいち早く願う、とSarahは述べました。

このような、まだまだ資材が限られる中で、誰のストーリーが、誰に向けて伝えられるだろうか、という問題も、ジャーナリストが、AR/VRクリエイションのモラルを問う上で浮上します。関連する興味深い一例として、Borrasら登壇者が紹介したのは、冤罪事件の実態を臨場感を持って人々に伝える為にAR/VRクリエイションが行われた際の話です。
それはDNA鑑定が世間が思うほど正確ではない、という内容のドキュメンタリーでした。実際に、5ヶ月もの間誤って投獄されていた精神疾患と診断されたホームレス男性によってナレーションが行われます。リアリティを追求する上で、彼の言葉を採用する必要があると考えた製作者らでしたが、患者でもある彼が、おびただしい数のカメラやグリーンの背景紙に囲まれることは、多大な配慮と時間を要したとBorrasは語りました。このように、リアリティを追求した際に題材を選択し、また誰をクリエイションに巻き込み、誰に発信するかという点でモラルが問われると同時に、制作の際の参加者の負担も大きいものだという認識も必要です。
VR/ARの技術は教育的な報道においても、幅広い可能性をもちます。エンタメのみに限られた機材や施設を活用するのではなく、たとえコストと時間を要したとしても、伝えたい教育的な情報や言葉に、もっと積極的にVR/ARの技術を活用したい。という想いが、多くのジャーナリストや映像作家にはあります。
ディスカッションの楽しみ方=未来を妄想
ここからは私の考察です。
2014年に公開された『ナイトクローラー』という映画をご覧になった方々も多いと思います。駆け出しパパラッチのジェイク・ギレンホールが、テレビ局が求める過激な素材を、事故現場に駆けつけ、いち早く入手して写真や映像の持ち込みを続けることで、徐々に局に認められる話なのですが、そのうち、いかにしてその過激な場面に立ち会うかという工夫から、徐々に死体を移動させたり、不法侵入を犯すなど、ないはずのもの、見るはずのないものまで、撮ろうと画策し現場に直接手を加えるようになります。
この映画のジェイク・ギレンホールは、顔つきが始終おかしいので(目力が強すぎるし、とにかくまばたきをしない)、サイコパスの気が漂いますが、仮にこれがVR/ARを応用するジャーナリズムであれば、容易に現物に手を加えることができる上に、生身の人間、物体を捏造することよりもよほど抵抗が少ないのではないでしょうか。そんなことを考えながら耳を傾けていました。
来場者は近未来に起こりうる、様々なテクノロジーの陰と陽をこれらのパネルで考えることができます。テクノロジーの功罪を、自分なりに問うひと時をたのしんでみてはいかがでしょうか。
ちなみに、今回の記事が面白いと思われた皆様には、家にいながら、さらに飛躍的なSFワールドに浸ることのできるNetFlix シリーズのドラマ『Black Mirror』も楽しめると思います。ドラマに没頭したら最後、抜け出せないタイプの方にもおすすめの毎話完結型です。また、未来の技術とそれを取り巻く世界を構想するSFプロトタイピングについては
が、面白かったです。この2つで備えれば、ディスカッションを聴きながら楽しく妄想できること間違いなしではないでしょうか。
次回は面白かったインタラクティブのパネルを、さらに紹介したいと思います。
【vol.1】彼の地、オースティン
【vol.1】彼の地、オースティンはこちらから
中村理彩子。
WHO’ S RISAKO ?
学生・モデル
1994年埼玉県生まれ。幼少期をハワイとサンフランシスコで過ごした日米ハーフ。中国・上海を訪れた際、服飾文化の違いに魅せられたことをきっかけに、ファッションデザインの研究を志す。この春、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。現在は文化服装学院で「服作り」を学びながら、モデルとしてCM、雑誌、カタログでも活躍中の23歳。
DiFa編集部