Topics | 2018.06.08
《連載》モデル理彩子が綴るSXSWリポート【vol.4】: 共感は、快感。ストーリー・テリングって何?

《連載》モデル理彩子が綴るSXSWリポート【vol.4】: 共感は、快感。ストーリー・テリングって何?

「ストーリー・テリング」という言葉を日常で聴くことはあまりないかもしれません。

しかし、今回のSXSWのパネルでは、多くの登壇者がこの言葉を口にました。

日本語にすると「物語を話す」と直訳されるので、そんなことは人類の長い歴史の中の、古くて当たり前の営みだなと、一蹴したくなるのですが、だからこそ、そして今こそ、重要らしい。最先端のテクノロジーやビジネスの集まるSXSWで「ストーリ・テリング」が取り沙汰された背景を、SXSWのパネル・ディスカッション、そして私の考察とともに、紹介させていただきます。

※SXSWに馴染みのない皆様はこちらもどうぞ↓

SXSWってどこで開催されているの?>>VOL.1
SXSWって、そもそも何>>VOL.2
SXSWのパネル・ディスカッションってなに>>VOL3

–SXSWでは、日中のパネルの合間にも聴きにいけるライブがたくさんある。アプリ「SXSW GO」で混雑も確認し、スケジュールに組み込むことができる。

人間の情報処理能力とストーリー・テリングの関係性

SXSWでは、ストーリー・テリング(以下、ST)という文句を、様々なパネルで聞く機会がありました。例えば前回の記事で取り上げた「Camera First Food に見る、食の民主化」のパネルでは、産地や原料に並んだ食に付随する情報として、どれだけSTを消費者に伝えられるか、という話にもなりました。

例えば、産地や原料といった情報がバラバラに存在し、我々の生活に無数に登場するとします。その中で最も訴えたい情報を、覚えやすく、鮮明なものにするためには、分断されていない、繋がりのある情報として、STが必要になってくるのだとニック・モーガン氏は言います。『What Storytelling Is And Is Not』というForbes onlineの記事の中で、プリンストン大学で教鞭をとった経験もあるコミュニケーション・コンサルタントである氏は、STに包括されることと、されないことの双方を明確にしています。

その中でもSTの根幹にあるのは、第一に「人間のコミュニケーションに対する欲求を満たすこと」であるとし、これは「人間の脳の仕組みと深く直結するから」と言います。

言い換えれば、人は物事に対し「共感」「共鳴」することを快感と感じるため、さらにそれらを求めます。無数の情報が飛び交う中で、特別な情報として識別されることがSTの趣旨となります。

–情報が鮮明に記憶されるためには(さらに拡散されるには)、情報からストーリーを構成することが重要であると、STの重要性が語られた。

効果的なストーリー・テリングで重要なのは、オチ

そんなわけで、「Camera First Food に見る、食の民主化」では、消費者に拡散される食を巡って行われる情報提供者の工夫を取り上げました。そしてここでもSTを着実に行うことが重要だと多くの人が思ったようです。

しかし、情報が拡散されるためには「他の食と差別化され、共有したいものと感じる」ことが重要だという認識が来場者にはありました。

そこで、一人の女性が登壇者に対し、

「効果的なSTとは具体的に、何か? また、食を巡る問題や課題はどのように伝えていけたら良いだろうか? 例えば、原料を生産する上での労働環境や、食の産地の地域災害の背景をストーリーとして付与するなど、かなりシビアな背景が付きまとう場合があるが、これは明らかにすることは、拡散する上で効果的なのか?」

という内容の質問をしたのですが、一人のパネラーはこう答えました

「災害や被害の実情を情報として付与するときに気をつけなければならないのは、そこでストーリーが完結してはならない、ということです。災害のアピールを過度に行うと客足が遠のき、観光産業が痛手を負うケースがあります。それと同様で、重要なのは、いかにこれを克服したか結末を主張すること、または克服に向けて精力的に行っている工夫や努力を告知することであり、災害や課題そのものは人を惹きつけません。」

つまりここでは、生産にともなう苦労、よりも、供給にいたるまでの工夫や独自性を伝えることが、人々の共感を促すSTであるということになりそうです。確かに、戦争映画やホラー映画おいても、観たいのは、悲しみや恐怖というより、それを乗り越えた結末にある最終的な成功や幸せかもしれません。

このパネルでは、食が写真で拡散される現代と未来を考えるものでしたが、このようにSTは、膨大な情報が人々の生活に流れ込む中で、どうしたら、スワイプする指を止めて、じっくりと共感してもらえるかを考える必要性とともにSTが存在すると考えられます。

Amazon Goの店舗にみる、実空間における顧客分析の目的

ここからは私の考察です。

個人的にSTと交えて最近よく考えるのは、現在ECが圧倒的に普及している中での「店舗」の役割です。UBER EATSの登場でいよいよ食事までもがECでまかなえてしまう世の中なので、店舗を持つことは大きなリスクです。そんな中、アマゾンが、無人店舗Amazon GOを出店しました。

しかし、無人ならECでいいじゃないか、と思う方もいると思います。Amazon GOの店舗について、松村太郎氏はこう語りました。

「コンピュータビジョンは、ユーザーが入店してバーコードを読み取ってから、カメラで顔を認識し、どこにいるかを、何をしているかを追跡する。センサーフュージョンは、ユーザーが何の商品を取ったかを認識するのに使われているようだ。そして、深層学習アルゴリズムによって、これらが解析され、正確なユーザー行動、すなわち何を手に取り、何を戻したか、という情報を認識する。」

–松村太郎 アマゾンのリアル店舗「Amazon Go」がもたらす3つの変化

アマゾンは実空間を用いて、人の動線を読むことで、決済の手間を省くシステムを導入しました。少々飛躍しますが、ここからさらに、各人の表情や、感情を読み解いていくと、どのような顧客に、どのようなストーリーを付与すると商品が売れるのか、ヒントを得られるかもしれません。

ECで大きな成功を収め、もはや実店舗は不要だと謳ったようなアマゾンでしたが、実空間の中で、人の微細な感情の変化を汲み取ることが、流通や商品の開発にとって、限りなく重要な情報になる可能性があります。定量的な情報だけでなく、質的な情報の利活用がビジネスにおいて今後とても価値のあるものになるかもしれません。

ここには、ストーリーを構成する本質と、通ずる点があるとも言えるのではないでしょうか。Amazon GOではカスタマー・ジャーニーがより可視化されると共に、訪れる個人を細かに解析することで、大衆ではなく、個人に対しモノを売り、作る素地を固めているのではないでしょうか。

商品のみならず、ストーリー・テリングが「パーソナライズ」される未来。先駆けはAmazonか

そして、今後はSTの根幹である「共感」を売る時代が、さらにその「共感」が、個人に依拠する、限りなくパーソナル化されたものとして売られる時代が、きっと訪れます。我々は現在その材料をSNSやプラットホーム上で拡散し収集し、アマゾンはこれに加えてセンシング技術を駆使して行っています。

考察が長くなりましたが、STとは、商品と情報の差別化を図るため、非常に大きな可能性を持つ中で、質的な付加価値の重要性、そして採集方法の可能性としての実空間の意義を、気付かせる手法なのかもしれません。

次回:これまでの回を振り返るとSTと、デジタル・マーケティングが、かなり密接な関係にありそうです。他のパネルディスカッションでは、今流行りの「インフルエンサー」のデジタル・マーケティングにおける効果的な利活用というテーマを取り上げられていたので、次回はこちらをお届けします。面白いことに「アスリート・インフルエンサー」という妙に限定的な題材を扱うので、つい足を運んでしましました。STの延長線上にあると思われるデジタル・マーケティングの視座から、SXSWの別のコンテンツについてお伝えしたいと思います。

Illustration:RISAKO NAKAMURA

DiFa編集部



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