Special | 2018.10.05
ゲストエディター理彩子による特別企画 part1「2018 秋、漫画考〜漫画家 矢島光先生と考える漫画の未来」

ゲストエディター理彩子による特別企画 part1「2018 秋、漫画考〜漫画家 矢島光先生と考える漫画の未来」

こんにちは、ゲストエディターの理彩子です。

溶けちゃうような真夏の暑さから解放される秋は、公園やテラスのあるレストランに出かけて、読書がしたい。

……ということで、私のイチオシ漫画、『彼女のいる彼氏』の作者であり、またSFC(慶應大学湘南藤沢キャンパスの略称)の先輩でもある矢島光先生と対談するこの企画は、デジタル化する漫画の行方、漫画で表現する恋愛観、また矢島光先生の異例のスピードデビューの裏にある数々のエピソードを、対談形式で紹介したい。

でも、まずはその前に、この秋読みたいおすすめ漫画10選を提案。ユニークな経歴と行動力の漫画家・矢島光先生に影響を与えた5冊、ついでに、割とよくいる、休日は省エネタイプの女こと私・理彩子から5冊是非とも秋の休日読んでほしい10冊を、ここでは2人から(交互に)漫画を紹介したい。

1.『彼女のいる彼氏』矢島光(理彩子 選)

/新潮社 (私物)

理彩子のイチオシ漫画からご紹介させていただくが、この漫画。タイトルからして「お?」となる。

「『彼女がいる彼氏』を、『彼氏』と呼べるのか?」

と、まずそう思うかもしれないが、おそらく恋愛の理想のカタチではないだけで、実際には周りによくあるこのケースを描いているのが、『彼女のいる彼氏』の恋愛観である。

切なきリアル。ただ、それだけがこの漫画の特徴ではない。

本作をオススメしたいのは、特に学生や就活生。なぜなら舞台は華やかなメガベンチャーとして名高いサイバー・エージェント社である。何を隠そう、作者である矢島光先生はサイバー社に新卒で入社し、フロントエンジニアとして働くかたわらで、漫画を描き続けた。

だから、社内の描写は体験に基づいた、実にリアルなものが多い。ビックベンチャーで働く上での、いいことも悪いことも、分け隔てなく、読者に伝えている。

出来高の実力主義、年齢とポジションは関係無し、というのが伺える一方で、皆、自分の企画に愛情と執念を抱いて、根性と体力で取り組んでいる。

それが恋愛の糧になったり、破局をもたらしたり、よくある葛藤が垣間見える。

職業漫画はいつだって面白いけれど、特に現代における就活の参考にしたい漫画は、この『彼女がいる彼氏』なんじゃないかと思う。

※次回の対談記事ではさらに、本作の裏話や、誕生秘話を紹介します。

 

2.『ONE PUNCH-MAN』村田雄介(矢島光 選)

/集英社(私物)

軽い読み味で必ず元気になれる作品を目指している、と語った光さんが参考にする一冊が、『モブサイコ100』でも知られるONE先生の『ワンパンマン』。確かに、後腐れないライトさ、でも面白い。

光さん「作家さんの仕事量でいうと決して軽い作品ではないのだが、読み味が軽い。そういう意味で、わたしのベースというか、つまづくと絶対読み直す作品です。」

3.『凪のお暇』コナリミサト(理彩子 選)

/秋田書店(私物)

漫画を一切読まない友人に貸したら、「漫画って、こんなにサクサクと楽しめるんだね。」との感想をいただいた本作品。

28歳OLの凪は、空気を読むことに疲れ精神が病んだ。意地悪な彼氏も、誰1人味方のいない会社も、都内のマンションからも、全部逃れて行き着いた小さなアパートで繰り広げられる新たな友人関係は、不思議な展開とリズムをもって進行する。凪が行方をくらましたあとの、元彼・慎二の心境を描く場面は、秀逸そのもの。人生に疲れた人に読んでほしい、マンガ大賞入賞作。

理彩子「あの元彼・慎二の独特な男性像はどこから得られたんでしょうね。」

光さん「……元彼じゃないですか?」

理彩子「漫画家と付き合うと怖い。」(※あくまでこちらの勝手な想像です)

4.『花とみつばち』安野モヨコ(矢島光 選)

/講談社(私物)

女の子の綺麗になりたい、おしゃれしたい(あと、好きな人を振り向かせたい)を題材にした漫画は多いけれど、この作品はちょっと珍しい、男性版のプロデュースのストーリー。

不思議な美容室に通って毎回別の部分を直して、周りの反応を見る滑り出しから、先が気になる楽しい展開。

笑えて元気になる、そして先が気になっちゃう、という点では、確かに矢島光先生が参考にする読み味というのも納得。

理彩子「見てすぐにわかる、安野先生の絵はやっぱり不動の可愛さですよね。」

5.『あさひなぐ』こざき亜衣(理彩子 選)

/小学館(私物)

この漫画を通じて、主人公も読者も、「薙刀」という珍しい競技と出会い、どんどん好きになっていく。

わたし自身も、ソフトボールに打ち込む中学時代を過ごしたがこの漫画を読んで、ひたむきに汗を流した日々を思い出すことができた。

なりふり構わず競技に没頭した経験を持つ人は、間違いなく心を動かされるストーリーだ。映像化もされた人気作。

理彩子「学生時代はソフトボールのためにベリーショートにして、日焼けして、サルでした。現役時代は化粧も何もなかった。」

光さん「わたしも、学生時代は強豪校でバトントワリングに打ち込む日々だったので、よくわかります。他の子が青春するのを横目に、なりふり構わずという感じでした。」

理彩子「華やかでおしゃれな女の子が、化粧をして、恋愛している中、もはや同じ土俵にはいなかったです。」

6.『零落』浅野いにお(矢島光 選)

/小学館(私物)

光さん「わたし、基本的に暗い漫画は、苦手なんですよ。でもこれは吐き気を催すレベルで共感してしまった。読んだ後も鬱の涙が止まらない漫画。」

理彩子「内なる鬱が掻き立てられちゃう漫画なんですね。」

光さん「作者の前作『おやすみブンブン』が売れた後の苦悩の期間を描いた作品なんですよね、離婚などを含め。貯金残高とか、同じ漫画家からすると生々しい描写で。醜いんだなあ……って(笑)。」

理彩子「自分を投影する漫画というか、同業としては胸にささるんですね。」

光さん「自分ごととして、読まざるを得ないというか……。」

7.『あさきゆめみし』大和和紀(理彩子 選)

/講談社(完全版・私物)

「このオトコ、とにかくモテる。」個人的な趣味で自分の本にオリジナルの帯をつけているわたしが、このあさきゆめみしにつけた帯。光源氏が宮廷恋愛において無双する一冊。

源氏物語を漫画化したこの作品の、唯一無二の魅力は、緻密で美しい絵から伝わる平安貴族の文化の華やかさ。

当時の四季折々の行事、習わし、食など、読むことで造詣が深まる。

光さん「わたしも読んでいます。」

理彩子「絵がもう、紙媒体でじっくり楽しみたいと感じる、緻密な美しさなので。」

8.『リアル』井上雄彦(矢島光 選)

/集英社(私物)

「自分が目指す作風の、サクサクとした読み味の参考にする、初心に戻るための作品でもある。」と光先生は語る。

確かに『スラムダンク』の巨匠、井上氏の作品は、力強い、躍動感ある絵に引き込まれてグイグイ、読み進んでしまうものが多い。

光さん「深く重いテーマを扱っているにもかかわらず、作画構成上サクサクと読み進められることに感嘆しながら何度も何度も読み返しています。」

理彩子「誰でも読める、面白いものを作るって、ニッチな層にウケるものを作るよりも難しいことは多いですよね。漫画は外国人も読んで、日本語の勉強に使うくらいだし。みんなが楽しめるものを作ることに、大げさではなく、愛、を感じます。」

9.『愛してるぜベイベ』槙ようこ(矢島光 選)

/集英社(私物)

「わたしの作品の男性像を描く上で意識する一作です。」と、光さんに紹介されたのがこちらの懐かしのりぼん作品。

理彩子「懐かしい! わたしも小学生時代に読みました。」

光さん「当時のリボンには、『君だけを見るよ』的なヒーローしかいなかった中で、槙先生の男性像は革命的だと感じました。」

編集長「しかもこの画風で。」

光さん「そうなんですよ。」

理彩子「色々な女性に対して浮気に渡り歩きながらも、本命もいる男性は、矢島先生の作品にも確かにいました。」

10.『かくかくしかじか』東村アキコ(理彩子 選)

/集英社(私物)

久しぶりに漫画を読んで目が潤んでしまった、東村アキコ氏の自伝的な作品。

『ママはテンパリスト』など、自身の体験をもとに制作された作品がとっても面白い作者だが、ここでは芸大時代のエピソードの数々を、恩師を中心に描く。笑いどころも本当に豊富な、サクサク読める感動作。

何かの作り手として、また両親をはじめとする恩人たちへの気持ちと向き合うことなどなど、色々な意味で奮い立つ漫画なので、同年代の若者には、特に読んでほしい。

編集長「東村先生の作品はこちらをふくめ全部愛読書だけれど『ひまわりっ』は永遠のバイブル。猿渡主任にどれだけ影響を受けたかわかりません」

光さん「わたしも全部読んでます!」

以上が矢島光先生と、わたし理彩子の、読書の秋に読んでほしい、イチオシ漫画10選。

次回以降の記事では、矢島先生のヒット作『彼女のいる彼氏』の裏側、そしてヤングジャンプで連載が始まる光先生の次回作に迫る。女性漫画家ならではの漫画家としての問題提起。またウェブから紙面に移行できる作家とは、どんな作家なのかを探っていく。

右:矢島光先生。ちなみに、理彩子との出会いはツイッター。メッセージのやり取りを経て、後輩というのを口実に、対談までこぎつける。光先生はツイッターの対応も優しいので、ファンメッセージを送っても、きっと大丈夫。

矢島光/やじまひかる 1988年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学中に『週刊モーニング』主催の「MANGA OPEN」(現「THE GATE」)で奨励賞を受賞。2012年株式会社サイバーエージェントに入社。フロントエンジニアとしてアメーバピクの運営に携わる。2015年に退職し、専業漫画家に。2015-2017新潮社のWEBマガジン『ROLA』にて連載された『彼女のいる彼氏』が注目され、書籍化もされている。

理彩子/モデル・学生 1994年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。幼少期をハワイとサンフランシスコで過ごした日米ハーフ。中国・上海を訪れた際、服飾文化の違いに魅せられたことをきっかけに、ファッションデザインの研究を志す。現在は、研究活動の一環として、レーザーカッター等の工作機械を用いた衣服製作を精力的に行うほか、広告・雑誌等でファッションモデルとしても活動中。現在は文化服装学院で「服作り」を学んでいる。

→トーキョーCOVERGIRLにも理彩子が登場しています

前編はこちらから

後編はこちらから

PHOTO:SHINICHI KAWASHIMA(MODEL)

DiFa編集部



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