Special | 2018.10.31
ゲストエディター理彩子による特別企画 part2「2018 秋、漫画考理彩子的漫画考~『彼女のいる彼氏』から考える漫画の未来」

ゲストエディター理彩子による特別企画 part2「2018 秋、漫画考理彩子的漫画考~『彼女のいる彼氏』から考える漫画の未来」

こんにちは、DiFaゲストエディターの理彩子です。

前回の『vol1 ~矢島光先生と選ぶ、この秋読みたいおすすめ漫画10選~』で紹介された漫画は、お読みいただけたでしょうか。

今回は、私、理彩子にとってはSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスの略称)の先輩でもある、漫画家の矢島光先生をお招きする対談編。新たに始まった、ヤングジャンプでの連載に到るまでの経緯をお聞きします。

矢島光先生の新連載がヤングジャンプで始まった、という話。

理彩子おすすめ漫画のご紹介ありがとうございました。しばらく休日は家に引きこもりそうです。そして、早速ですが、光先生の新連載について聞きたいです。

光先生:はい。ヤングジャンプで始まった新連載『バトンの星』は、私がかつてのめり込んだ、バトントワリングを題材にした漫画です。

理彩子:バトントワリング、棒を回すということ以外あまり想像がつかないです。でも、読むことでマイナーなスポーツを知ることができる漫画って発見が多いので、どうしても読みたくなります。『あさひなぐ』や『アイシールド21』もそうでした。

光先生:わたしの作品は恋愛という、多くの人に通ずる普遍的な題材を扱うことが多いです。そういう意味で恋愛は、ある意味誰にでも書けます。そこに掛け合わせるものとして、私にしか書けないものは何だろう、と考えます。

理彩子:確かに、光さんの以前の漫画でも、知りえなかった内部情報のようなものを知る印象を受けました。例えば『彼女のいる彼氏』ではサイバーエージェント社を題材にされていましたよね。就活生に読んでほしいくらいです。

[※光先生は、SFCを卒業後、サイバーエージェント社に入社。3年後に退社されるまで、メガベンチャーで働きながら漫画を描く日々を過ごした。2017年4月までROLAに掲載されていた縦スクロールの電子漫画『彼女のいる彼氏』が世間の注目を集めた。]

漫画のネタにするきっかけは、過去の記憶を辿るという話。

理彩子:『彼女のいる彼氏』も、バトントワリングも、ご自身の経験を元にした作品ですね。サイバーにいた頃、「これネタにしよう」と、メモをとっていたのですか?

光先生:メモは、全然。逆に、メモを取らないと忘れてしまうような出来事は、ネタにするほどではないのかもなと。鮮明に記憶に残っているような、忘れようにも忘れられない事柄こそ、私にとっては書こうと思うことに結びつくのかもしれません。

こじらせ恋愛の原因は過去にありそうだという話。

理彩子:今回の作品でもこじらせ恋愛を?

光先生:そうです。これもやはり自分の過去を遡りますね。

理彩子:例えば?

光先生:バトンに打ち込んでいた頃、恋愛なんて経験しないも同然だったので、周りの「キラキラした女子」の恋愛を、指をくわえて見ていました。

理彩子:わかります。私も中学時代はソフトボール部で、髪も短く、引退までは化粧も知りませんでした。ソフトテニス部の可愛いらしい女子が彼氏を作るなか、もはや同じ土俵に立てていなかったですね。

光先生:また、そうして夢中で打ち込んだものに突如として終止符が打たれると、人は大きな喪失感に打ちひしがれる気がします。長年の部活を引退したり、怪我をして辞めざるを得なかったり。実際、そうして、気持ちのやり場がなくて、「こじらせる」人が私の身近な人間にもいました。ですから、そんな人がいたら、当時夢中になって青春を捧げたもの思い出しつつも、元気になって欲しい。という思いを込めて書いたのも、今回の作品です。

紙面へのデビューをきっかけに、武者修行に出た話。

理彩子:ウェブと紙の漫画って全然違いますよね。ウェブの漫画は背景がほとんどなかったりと、かなり簡素な印象を受けます。そのぶん、スマートフォンの画面で読むには適していて、サクサク読める。

光先生:そうですね、ウェブに掲載された『彼女のいる彼氏』は、そうしてテンポよく読めることを意識しました。

理彩子:今回は紙媒体ですが、何を意識されましたか?

光先生:ヤングジャンプの編集長に「紙面に載せるなら、絵の上達が必要」と言われました。ウェブで掲載していた『彼女のいる彼氏』レベルじゃ、ヤングジャンプには載せられないと。そういうことならと、一から絵を学び直しました。

理彩子:この作品のために絵を勉強し直したんですか! 具体的に何を改善する必要があったのですか?

光先生:まずは、顔、ですね。顔が上手に書けないといけない。それでデッサンを学びに通いました。あとは、他のヤングジャンプの作家さんのアシスタントにも入らせていただきました。

理彩子:ヒット作を出してから、またさらに下積みを経験されたのですね。顔以外では、他に何か直すように指示されましたか?

光先生:ヤングジャンプは少年誌なので、「おっぱい」を綺麗に書かなくていけないみたいで、「下品で申し訳ないけど、胸をもっと大きく、綺麗に」という注文はありました。

理彩子:……おっぱい?

おっぱいの話。そして、男性誌に掲載される漫画を、女性漫画家が描くという話。

理彩子:青少年の夢みる理想のおっぱいを、ある程度しっかりと描く必要があるんですね。そういう要求は女性としてちょっと違和感ありそうですけど、同じの女性の編集者はきっとその気持ちを察して、ある程度、譲歩はしてくれるんでしょうか。

光先生:ヤングジャンプの編集部は少年誌ということもあって、男性しかいません、女性の編集者はいませんね。

理彩子:逆に女性誌で「こんな風貌の男との恋愛じゃ、読者は喜ばないよ」と、女性漫画で男性の描き方を指定されることあるんですかね。

光先生:どうなんでしょうね。でも、今回の経験で、男性誌でやってきた東村先生や安野モヨコ先生は心から尊敬しますね(笑)

男性作家も悩む、男性誌が求める女性像の話。

理彩子:当たり前すぎますけど、男性誌における女性の性の対象化はとても根強いですね。……特に青年誌の場合、自我育成の段階で、漫画を通じて少年がどんな女性像と触れ合うのか、結構重要な気はしますけどね。そういう意味で、女性が描く女性像、が男性誌に掲載されてもいい気はするのですが。

光先生:うん。ただ、私だけではありません。ある男性の漫画家さんも、魅惑的な「パンチラ」をもっと追及することを求められたという話を聞きました。その方は、「パンチラ」の魅力を理解できず苦しまれたとか。

理彩子:男性作家さんでさえも、描きたくて描いているとは限らない、性的描写が結構あるんですね。

光先生:そんな中でも、女性を性の対象としてではなく、「女性を自我のあるキャラクター」としてしっかりと描かれている、私の尊敬する作品が、ヤングジャンプに2つあります。『ブンゴ』という野球漫画と、『ダイナー』というちょっとグロテスクな漫画ですが、おすすめです。女の人のセリフが、すっごく良かったりする。

理彩子:「こういう場合女性だったらどう考えるんだろうな」と考えながら、女性を描く男性漫画家は貴重なんですね。

考察:漫画と紙面の今後の関係。

「漫画」は、誰にでも書けるものになった。
内容はもちろんのこと、画力も、分量も、掲載のペースも、自分で決められる。ツイッターをはじめとするSNSでは、四コマ漫画や、たった1ページの漫画で絶大な人気を博す漫画家がいる。そういう意味では、大手出版社のお墨付きがなくても、自身の漫画を大衆に届け、自分を漫画家と謳うことは可能なのだ。

しかしながら驚きなのは、これだけ自由に作品を世に出せて、例えば「note」のように、支持を得る、ある程度の金銭的対価を得るところまでがネットで完結する世の中なのに、紙面というものの価値が全く廃れていないということだ。むしろ、希少性という意味で権威を増したのかもしれない。

作品が「紙」として形を帯びることは作家にとっても、特定の読者にとっても、代え難い喜びなのだろう。また、矢島光先生が作画を学び直したというように、それだけ洗練された高い技術をもった作品が紙になる、といった印象があるのだろう。

ただ、紙に作品が載るためには、ウェブでは格闘する必要のなかった、挑戦や妥協をする。それは光先生の作画ように、作品の質を高めることもあれば、決まった読者に向けてそのテイストを変えることを余儀なくされる場合もある。

クリエイターが自由を謳歌するウェブと、歴史ある出版社の出版物、どちらが良いとか悪いとかいう話ではない。ただ、少なくともクリエイターが今後どんどん作品発表の場を選べるようになるというのは、とてもいいことだと思う。

例えば、今回杉田衆議院議員のLGBTを巡る発言を、「新潮45」が改めて支持する内容で新刊を出した。これを受けて、多くの作家や本屋が新潮をボイコットしているのが話題になっている。マスメディアに対抗する旨を、皆、ソーシャルメディア上で報告をしていた。いざとなれば大手出版業界と離反してもなお、十分に表現し、収入を得られる場はある。結果、「新潮45」は休刊に追い込まれた。

出版社の発行する質の高い作品の数々は貴重である。しかし、近年では、そこにはびこる体制の古さや、偏った考えが露見しているのも確かである。同列に物事は語れないが、男性誌が確立している女性像にのっとった、性として消費されがちな女性像を描かなくてもいい紙面が訪れる時代は、こういうムーブメントにも後押しされそうである。

次回の対談の続きでは、光先生が「万人の文化」であると語る漫画の魅力について対談。また、今の時代に漫画家になるということについて、改めて考える。

 

矢島光/やじまひかる 1988年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学中に『週刊モーニング』主催の「MANGA OPEN」(現「THE GATE」)で奨励賞を受賞。2012年株式会社サイバーエージェントに入社。フロントエンジニアとしてアメーバピクの運営に携わる。2015年に退職し、専業漫画家に。2015-2017新潮社のWEBマガジン『ROLA』にて連載された『彼女のいる彼氏』が注目され、書籍化もされている。

理彩子/モデル・学生 1994年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。幼少期をハワイとサンフランシスコで過ごした日米ハーフ。中国・上海を訪れた際、服飾文化の違いに魅せられたことをきっかけに、ファッションデザインの研究を志す。現在は、研究活動の一環として、レーザーカッター等の工作機械を用いた衣服製作を精力的に行うほか、広告・雑誌等でファッションモデルとしても活動中。現在は文化服装学院で「服作り」を学んでいる。

→トーキョーCOVERGIRLにも理彩子が登場しています

前編はこちらから

後編はこちらから

PHOTO :SHINICHI KAWASHIMA

DiFa編集部



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