Special | 2018.11.26
ゲストエディター理彩子による特別企画 part3「2018 秋、理彩子的漫画考~矢島光先生と考える漫画の未来」

ゲストエディター理彩子による特別企画 part3「2018 秋、理彩子的漫画考~矢島光先生と考える漫画の未来」

こんにちは、DiFaゲストエディタの理彩子です。

今回の対談後編にして連載完結編では、「ヤングジャンプ」で新たに始まった連載『バトンの星』を紹介しつつ、漫画がウェブで読まれることや、今の時代に漫画家になるということについて、改めて考えます。

 

「ヤングジャンプ」で連載する『バトンの星』だけど、女性にも読んでもらいたい、という話。

 
光先生:私の場合、自分の作品には自分の生き様がそのまま出てしまいます。今作もそう。主人公にアラサー女性が登場するのですが、彼女は三十路間近になって、自分の手中に何があるんだろうと悩むんです。結婚もまだ、子供もおらず、会社勤めが人生の中心にある。そんなとき、過去に努力した経験や大事にしてきたものを改めて思い出したい人々、中でも女性に向けて描きたいな、と。「ヤングジャンプ」なのに(笑)。

理彩子:先生と同年代の主人公なんですね。「ヤングジャンプ」はやっぱり女性の読者は少ないのですか?

光先生:はい、でも『東京喰種トーキョーグール』や『ゴールデンカムイ』をきっかけに女性の読者はかなり増えているようです。この『バトンの星』も映像化すれば女性に広く届きそうだという声も上がっています。

理彩子:なるほど、同じコンテンツでも、メディアを変えると届く層が変わりますね。

 

新連載では光先生の「生き様」を読んでもらいたい、という話。

 
理彩子:本作は作画の下積み修行を挟んで書かれた2年越しの作品だということで、『彼女のいる彼氏』を読んでいたファンは非常に楽しみだと思います。

光先生:はい。作画担当を別に設けずに待っていてくださった、「ヤングジャンプ」の編集長に感謝ですね。

理彩子:漫画ファンとして、応援している作家の画風が変わっていく様子や、成長するところを見守れるは嬉しいものです。東村アキコ先生の『ひまわりっ』時代の絵が、今の画風とはどこか違うところや、『ジョジョの奇妙な冒険』は遡るとバトル漫画調であったところもそう。変遷の裏には、こうした出来事があるのだと、貴重な話をきくことができました。

光先生:イチローの「(ファンには)僕のプレーではなく生き様を見てもらっているんだ」っていうセリフが好きなんです。美大卒で絵が完成されている作家さんはスキがないんですよね。でも私だったら「この人上手くなってきてるな」っていう生き様を見ていただくのも、エンタメとしていいかなって。

理彩子:作家さんの絵のタッチが変わるのは過去の作品を読み返したときに新鮮で、好きです。

光先生:服はどういうところに「生き様」が見え隠れするんですか?

理彩子:生き様と呼べるかはわかりませんが、私の場合は、女性服を作るときに追求する女性像に現れてくるものなのかもしれません。そこから素材を考案してデジファブしたり、形を作ったりしている気がします。

私は実家が茶道を教えているので、漆器や工芸が好きです。茶道のお点前は、ああ見えて、一挙一動意味があって、それがわかると、次の動きも覚えやすかったりします。「釜の口をきる」とか「湯返し」とか。そういうバラバラだと理解しづらいものも、文脈や一連の流れで価値を纏った、合理的で美しいものになる。そんな背景のある素材を使うことで、そういう生き方を演出したり、そんな人物像が誕生する服が作ったりしたいなと願います。

これが作品から見え隠れするようになれば「生き様」が浮かび上がるのかもしれません……(笑)。

 

作風は常に変え続けたいという話。あと、恋愛の話。

 
理彩子:こうして「ヤングジャンプ」の編集長の力もあって、少しづつ、光先生の漫画の作風にも変化が生まれました。例えば前回おっしゃっていた顔やおっぱいの話ですが、こうして改善・改変したところからは、ご自身の画風として定着させたりするんですか?

光先生:いえ、全然! 次は、本当にただただ恋愛が軸の漫画を描きたいと思います。それに合わせて、画風も少し変えて。最近はこれを考えるのも楽しいんです。

理彩子:恋愛観に徹した漫画、そしてそれに合わせてまた作画のテイストを変えるんですね。そう、作家さんとしての恋愛観についてもお伺いしたいこと、たくさんあります。

光先生:なんでしょう。

理彩子:恋愛表現と、テクノロジーによる流行って、密接な関係にあるんだなあと思うんです。『彼女のいる彼氏』もこういうところに非常に敏感な印象を受けました。例えば徳永くんの「優しい男性像≠ラインや連絡がマメ」は、たまにいる600パーセントの愛情で6人を愛せる器用なタイプ。

光先生:ポリアモリー思想だ(笑)!

理彩子: かたや、そんなマメさや器用さのない男性。仕事と恋愛の掛け持ちも苦手。対面で会うことを重視する「佐倉くんタイプ」。

光先生:はいはい。

理彩子: 主人公はそんな二者の「優しさの差」を比べてしまうじゃないですか。現代の恋愛にありがちな、対面で会うことがないのに、携帯電話越しに関係が曖昧に続いてしまうと、果たしてどういう二人なのかわからなくなるところ。

さらにはSNSの「いいね」さえも好意を表すツールと言われる昨今です携帯電話(というかSNS)のせいで変に期待し、無駄に失望することが起こりうる。一概に男女のスレ違いと言っても、その様相はテクノロジーやらITやらでこんなに複雑化したのかなと、先生の漫画で改めて気付かされるきっかけになりました。光さんは、どうしてそんなに「現代の恋愛」を描くのが上手なんでしょうか?

光先生:確かに、恋愛観は大事な作品の核です。なぜなら、バトントワリングなんて、興味や知識がある人はごく僅か。そこで、多くの方の興味と共感を得られる恋愛という題材は作品にとって要です。それだけ、重要視しているのはあります。

理彩子: バトンに興味がなくても、恋愛漫画が好きな方なら読みたくなりますもんね。ジャンルも掛け合わせるて広いファン層を獲得する上で、恋愛のリサーチは怠らないんですね。

光先生:それでも考えてしまいます…….。最近立て続けに結婚式に出席したばかりですが、愛を誓う場面に立ち会うと、その度「愛ってなんだろう」って。そして「愛」は永遠のテーマだ、と改めて思います。……安野モヨコ先生の『ハッピー・マニア』、好きだな(笑)。誰にも描ける作品じゃダメだし、誰にもわからない内容じゃダメですね。そして自分にしか書けないこと。これを意識した上での恋愛観に対するのこだわりはあります。

 

現代で漫画を目指すなら、フィールドを見極めるべき、という話。

 
理彩子:漫画家を目指す人、また、クリエイターとして自分の得意分野と市場のニーズについて考えている人には参考になるお話です。その流れで、ウェブコンテンツとしての漫画について、漫画家さんからお聞きしたいです。

光先生:例えば、ウェブで流行りの縦スクロール漫画の特徴は、複雑な絵を表現しづらいということも含みます。これはまだ絵が下手な作家にとっては好都合です。

理彩子:絵が細かいと、ウェブではかえって読みづらいですもんね。縦スクロール漫画という形態は、光さんの卒論の研究テーマでもありました。

光先生:なので、進んで戦場に選ぶべき場合もあります。絵が下手なのに、自分が慣れ親しんできたという理由で見開き形式の漫画を描いている人は、もう少し自流を考えてもいいのかもしれません。

理彩子:光さんはまさに、そのように縦スクロール漫画でのデビューを糸口に、ポテンシャルを買われて、最終的に目指していた紙面にたどり着いたわけですもんね。ウェブやオンラインプラットホームの活用の仕方を参考にしたいと思う、駆け出しの漫画家さんは多いと思います。

光先生:ウェブ漫画は可能な限りシンプルにするなど、読み手を考えることが大切かもしれません。文字を大きくする。あちこちに目が飛ぶような作りにしない。エフェクトが多くなりすぎるのは逆効果の場合もあります。漫画はそんなリッチなコンテンツではない、という私の考えもありますが。

 

昔クラスメイトと貸し借りしたように、漫画を共有したい、という話。

 
理彩子:漫画を共有したい。そんな時、人はアマゾン、キンドルのリンクを送る時代ですよね。それはそれで良いのですが、昔は自分と友人が、全巻揃えた漫画を交換したり、その作品を気に入ったら買ってました。今より漫画の購買意欲がわいた環境を、あのアナログな紙媒体は作っていた気がするんです……。シェアリングエコノミーと言われる今、また本屋が立て続けに閉店する昨今、考えてみたいテーマではありました。

光先生:まずウェブで言えば、電子書籍よりも、ブラウザですぐ読めるというのは重要かもしれないですね。リンク開いてすぐ読める。チャットツールで友人にることができる。

理彩子:ダウンロードも必要ないですね。ウェブ漫画なら、1冊につき2人まで共有して読むことできるペア購入や贈呈機能があれば買いたくなるかも……。2冊目が半額で、友人に贈呈できる。薦めやすくて、コミュニティが作れる、話題が生まれる、っていう理由で。

光先生:今存在する大手出版社よりも、編集者になりたいと一度は考えた若者たちが興すムーブメントやサービスかもしれませんね。

~終わりに:光さんの漫画と人柄~

「こじらせ女子」という言葉が、会話に何度か登場した。「こじらせ女子」の特徴は、時に雄々しく、時には女々しい女性、というところ。矢島光漫画の主人公によくいる。

「女を捨てて仕事や部活に一筋」などと口ではいいつも、女性的な華やかさには憧れを感じて完全に放棄することはできない。けれどそれが成功の代償だと思う不器用で真面目な人も多いはず。そんな愛すべき人物像が自然と浮かび上がってくるのが、光先生の描く人物像の特徴なのかもしれない。

 そして、作品に自分を投影してしまう話す光先生だが、そんな「こじらせ感」が感じられることはなく、専門分野以外にも話を広げる余裕やリテラシーがあり、謙虚で肯定的な人柄なのは印象的だった。「ヤンジャン」こと「ヤングジャンプ」の連載が始まるという非常に忙しい期間中に、対談を快諾してくれた先生に感謝の気持ちを込めて、この3部にわたる連載を終わりにしたいと思う。

 

矢島光/やじまひかる 1988年東京都生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業。在学中に『週刊モーニング』主催の「MANGA OPEN」(現「THE GATE」)で奨励賞を受賞。2012年株式会社サイバーエージェントに入社。フロントエンジニアとしてアメーバピクの運営に携わる。2015年に退職し、専業漫画家に。2015-2017新潮社のWEBマガジン『ROLA』にて連載された『彼女のいる彼氏』が注目され、書籍化もされている。

理彩子/モデル・学生 1994年埼玉県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。幼少期をハワイとサンフランシスコで過ごした日米ハーフ。中国・上海を訪れた際、服飾文化の違いに魅せられたことをきっかけに、ファッションデザインの研究を志す。現在は、研究活動の一環として、レーザーカッター等の工作機械を用いた衣服製作を精力的に行うほか、広告・雑誌等でファッションモデルとしても活動中。現在は文化服装学院で「服作り」を学んでいる。

→トーキョーCOVERGIRLにも理彩子が登場しています

前編はこちらから

後編はこちらから

PHOTO :SHINICHI KAWASHIMA

DiFa編集部



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