Special | 2015.12.21
【インタビュー】三越伊勢丹が考える、デジタルテクノロジー×ファッションの本質とは何か?【前編】

【インタビュー】三越伊勢丹が考える、デジタルテクノロジー×ファッションの本質とは何か?【前編】

人工知能ファッションアプリ「SENSY」を利用した接客や、自社アプリの「ISETANナビ」、食に関するデジタルメディア「WEB FOODIE(ウェブ フーディー)」、店舗ではApple Watchのリアルショップを展開するなど、既にさまざまな形でデジタル分野でトピックスを展開し、百貨店業界でも一歩前を歩んでいる三越伊勢丹。

今回は、普段から三越伊勢丹を利用することが多いというDiFa編集長の市川 渚がお客様目線で、三越伊勢丹の”デジタル特命隊長”とも言える、秘書室 特命担当 北川 竜也さんにお話しを伺ってきました。前後編に分けてお届けします。

三越伊勢丹の積極的なデジタルテクノロジーへの取り組みはどんな体験を生み出していくのか

DiFa編集長 市川(以下、市川):個人的に良くお伺いさせていただくこともあり、三越伊勢丹さんのデジタルや新しいテクノロジーに対する動きをいつも興味深く拝見しているのですが、このようにデジタルテクノロジーに積極的に取り組む方向へと動いた背景はありますか?

株式会社三越伊勢丹ホールディングス 秘書室 特命担当 部長 北川 竜也さん(以下、北川):ありがとうございます。時代としてデジタルテクノロジー化の波は否応なしに入ってくる状況ではあったと思います。例えば今、もし電気が止まってPCが止まったとしたら、三越伊勢丹のどの店舗もスムーズに営業できないんです。売上もわからないし、レジすら開けられない。その状態を考えると、空気のようにすーっとデジタルテクノロジーがインフラとして日常に溶け込む中、それを抜きにライフスタイル提案なんてそもそもあり得るのだろうかと。

市川:確かに。

北川:三越伊勢丹は、お客様のこれからの生活がどう変わっていって、どういう豊かさやわくわく感を感じていただくことができるだろう、っていうことを、100年以上追求してきた企業です。、その意味でデジタルテクノロジーを活用することが当たり前、という環境をベースにしたご提案というものをちゃんとできるようにしよう、と思うのは当然で、向かうべくして向かう方向だったと思うんですよね。

市川:デジタルテクノロジーを、当たり前にする。と。

北川:そうです。デジタルテクノロジーにも色々あるので、一括りにしてしまうのは難しいですが、例えば人工知能(AI)を導入した商品レコメンデーションが受けられるとか、試着室やスタイリストがWEBから予約できるとか、それはあくまで手段に過ぎません。

私たちの想いとしては、お客様がテクノロジーの存在を意識しないようになるっていうのが一番重要なことだと考えています。伊勢丹に行くと新しいライフスタイルに出会えて、ものすごく人生が楽しくなったとか、幸せになったとか、そう感じて頂けるような状態を作る。東京オリンピックの2020年を踏まえて、とかの話ではなく、三越伊勢丹としては50年後も100年後もそれを目指していかなくてはならない。本質的な話として捉えています。

市川:なるほど。今、世の中「デジタル、デジタル、何かデジタルでやらなきゃ!」みたいに表面的なものに煽られることも多いじゃないですか。ひとつの手段やツールでしかないデジタルテクノロジーがどういう形で私たち消費者の生活の中にスッと入ってくるのか、どう取り入られるようになっていくのか、おっしゃる通り、本質的なところでの「思想」は大切ですよね。

デジタル時代だからこそ、三越伊勢丹がお客様に提供するべきなのは「安全・安心」

北川:ええ。それと僕がよく、三越伊勢丹がなぜデジタルテクノロジーサービスに取り組むべきかというテーマでお話しするのは「お客様にテクノロジーを使ったサービスをご提供する上で、三越なら大丈夫、伊勢丹なら大丈夫、という信頼感をお届けすることが非常に重要だ」ということなんです。

デジタルテクノロジーってすごく扱いが難しくて、法律的にもルールがまだまだ整理されていない部分がたくさんありますよね。自分が情報提供に同意をしていたとしても、例えば、位置情報や閲覧情報がどのように活用されているか、を正確に理解することは難しいですし、時には犯罪に利用されるというようなこともリスクとしてある訳です。

デジタルを当たり前にする、お客様にデジタルを意識せず享受して頂くためには、安心・安全が何よりも重要なキーワードになると思っていて、それを提供できる企業っていうのは実は世の中にそれほど多くないじゃないかなと。自分もベンチャー企業に身を置いた経験があるので身にしみてわかるのですが、お客様からの信頼を頂くには一定の時間が必要です。三越伊勢丹の300年以上という歴史、銀座4丁目の角の場所、は改めて得ようとしても得られないわけです。

市川:なるほど。三越伊勢丹のアナログの力にデジタルテクノロジーを掛け合わせると、実はものすごいアドバンテージがある訳ですね。

北川:そうです。リアルの店舗を持っているというのも、1つのアドバンテージですしね。例えば、自分の身体のサイズや個人情報を預けます、というのはもうみなさんやっていらっしゃるんです。オーダースーツを作ろうとしたとき、紙に色々書きますよね。肩幅何センチ、股下何センチ、住所、連絡先、お名前、クレジットカード番号……あのデータが紙で残っているのか、デジタルで残っているのか、という差だけであって、いずれにしてもデータは残っていく訳です。

市川:それも、年月と共に膨大な量になっていきますよね。

北川:そうなんです。そもそも三越伊勢丹には、お客様の情報をお守りしなくてはいけないという意識がものすごく徹底されてあるからこそのブランドがあり、それが今も当然あるわけです。そこをデジタルの世界でもきっちり担保することができれば、デジタルテクノロジーの分野でもお客様の信頼を頂くことができるのではないかと。これは300年以上の長い歴史が積み重ねてきたお客様との信頼関係やマーケットのブランド認知意識が実はものすごく影響を及ぼすと思っていて。

だからこそ私たちがデジタルテクノロジーのサービスに先陣を切ってトライするということが重要だとも思うんです。足かせになるんじゃないかと思われてきたアナログの価値が、実は裏を返せばものすごいアドバンテージとなってお客様にメリットを還元できるのではないかと。

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今年の夏は新宿伊勢丹本店の店頭に「Pepper」が登場!

三越伊勢丹が挑む「デジタルテクノロジー×ファッション」に秘められた思想とは

市川:近年、ファッションをはじめ”モノ”とデジタルテクノロジーの距離感が急速に近づいていますが、三越伊勢丹の「デジタルテクノロジー×ファッション」に関する取り組みの根底にはどんな思想があるんでしょうか?

北川:「デジタルテクノロジー×ファッション」って、実に幅が広いと感じています。

バイヤーがコレクションやショーで買い付けをする、あるいは商品を借りる、その仕組みをデジタル化することも「ファッションにテクノロジーを入れてくこと」でしょうし、人工知能(AI)レコメンデーションやサイジングなどの顧客情報をデジタル管理するのもそう。

一方でApple Watchのように、デジタルテクノロジーや電気で制御されるモノ自体が、ファッションそのものになっていく展開もありますよね。ガジェットを身に着けることが、アクセサリーを身に纏っているのと同じような感覚になっている。

市川:そうですね。今年はウェアラブルアイテムがより一般に認知され、Appleをはじめ、テクノロジー企業のファッション分野におけるブランド力強化も目立つ年でした。三越伊勢丹もデジタルテクノロジー×ファッションの分野において、さまざまな取り組みをされていたと思いますが。

北川:わかりやすいものだと、新宿店のメンズ館で実施している人工知能アプリの取り組みです。今回は、お客様の本当のニーズや想いを引き出す作業を、テクノロジーサイドでもっとカバーできるんじゃないか、もっともっと高められないか、という発想が出発点になっています。

最終的には人対人の接客においてお客様に価値をお届けすることが何より大事なわけですが、接客するスタイリストが過去の情報をすべて網羅できるわけではありません。そういう意味では新宿店にいらっしゃる年間約2,500万人のお客様それぞれの想いや好みがアルゴリズム化されていれば、初めて接客するスタイリストが過去の情報を紐解いたり、勉強したりするところに時間を使わなくて済むようになる訳です。こういうのが好みかな、とか、じゃあちょっと変化球で攻めてみよう、とか。普段着られない黄色いパンツいかれたらどうですか、とか、提案の幅を広げる時にすごく使えるだろうなと思ったんですよね。

市川:なるほど。

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伊勢丹新宿本店 メンズ館6階でプロモーション展開されている人工知能アプリ「SENSY」。(2015年12月31日まで)

北川:もうひとつ面白いポイントが、スタイリストやバイヤーの好みをアルゴリズム化しているという点。すると、人間にできないことが今度できるようになる。これは機能の代替ではなくて、機能の補完になるんです。

例えばの話、憧れている芸能人のアルゴリズムが生成されれば、その芸能人のアルゴリズムと、自分のアルゴリズムを、テクノロジー的には混ぜることができるわけですよ。そうすると、自分の好みにあこがれの人の好みがが合わさった提案をお客様にご提供することができる。この実現には、テクノロジーの活用が不可欠です。

単に人工知能(AI)を使ったレコメンデーションや接客をしたいというよりも、本当に人間がやるべきことと、テクノロジーだからこそできることっていうのが実はハッキリ整理がついてくるので、とても期待をしているプロジェクトです。ただ、最初は正直うまくいかない部分がたくさん出ると思っています、こういう新しい取り組みは。」

市川:えー。そんな、バッサリと(笑)

最新のテクノロジーだからといって、人対人のコミュニケーションを代替されることはない

北川:私たちは結局のところ、最終的には人対人、“Heart to Heart”のコミュニケーションが何よりも大事だと考える企業です。いわゆる「外商」という言葉に代表されるように、お客様のニーズを本当にくみ取って、お客様の一歩先を行く提案やお客様のかゆいところに手が届く提案をしていくことが、私たちのアイデンティティです。当然のことながら、それがテクノロジーで代替されてしまうことはないと自負していますし、補完だって、おそらくは難しいはずなんですよ。

だからこそ、様々なトライアルをして、しっかり反省をして、ダメなところは早く損切りをして、本当に必要な機能を日常業務にどんどん入れていくっていう、この失敗に耐えていくサイクル、新しいものを入れていくサイクル、これが非常に重要だと思っています。机上で学ぶことも大切ですが、実行して得た学びの方がより多くの見識が溜まるわけですから。

市川:頼もしい。今は最新といわれているテクノロジーが10年も価値を持つ、という保証もないですもんね。

北川:そうですね。もしかすると、昔は技術の進化によって10年以上持つ価値を生み出せたのかもしれません。でもデジタルの施策って、10年どころか、10分で変わるという事がありうる世界だし、誰も答えを持っていない。他社さんでうまくいったから三越伊勢丹でもうまくいくってこともないし、お客様も違うし、場も違いますからね。

それと、特に難しいのはテクノロジーに振り回されてしまうこともある、ということだと思います。「このテクノロジーを使えばこんなことができるようになる」と新たなサービスを生み出しても、お取引先様、いわゆるファッション業界の方や、売り場のスタッフにあまり使ってもらえないことがあります。お客様の反応はもっとシビアです。

市川:そうですね。そのチャレンジに対する努力は認めるけれども、機能してそうなものをあまり見たことがない。

北川:テクノロジーサイドからの考え方とマーケット・顧客サイドからの考え方、このバランスをしっかり取らないと価値を感じて頂けるサービスにはならないし、これは机上で考えるのではなく、トライして、生の声を頂いて、修正して、ということを繰り返さないと一定の正解には決してたどり着かないと思います。

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弊社の伊勢丹新宿本店でも導入しているiBeaconを使うと、近くに来た人のスマホに対して、プッシュ通知を送ることができます。ただ、このプッシュ通知もやり方を間違えると、いらないDMがいっぱい来るのと何ら変わらなくなってしまう。 その裏には結構なコストも発生しています。お客様が求めるものというのは千差万別ですので、テクノロジーの力をもっと活用して、パーソナライズ化を進め、お客様に自然と気持ちよく三越伊勢丹に関わっていけるような環境を弊社のアプリ「ISETANナビ」等を進化させることで提供してゆきたいと考えています。

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店頭の案内をしてくれるナビアプリ「ISETANナビ」

市川:確かに、通知が多くなれば多くほどノイズになるというか、チェックする気にすらなれない気持ちはわかります。一方で、北川さんが先ほどから仰っている、失敗や足りない部分をどんどん変えていこう、トライ&エラーをどんどんやっていこうという姿勢は、三越伊勢丹さんの社内に既にあるものなんでしょうか?

北川:新しいことに対して挑戦したいという貪欲さと、お客様のためになりたいという真摯な姿勢、これは間違いなく三越伊勢丹のDNAだと思います。ただ、日々お客様にお越し頂いている以上、ご迷惑をおかけするような失敗をしてはいけないわけで、その中でどこまで挑戦するか、という線引きはいつも悩むポイントですね。

市川:(笑)三越伊勢丹におけるデジタル分野の“特命隊長”と言っても過言ではない、特命担当北川さんの思う、三越伊勢丹のテクノロジー×ファッションの理想の取り組み、もう少し、お聞かせ頂ければと思っています。

北川:はい。宜しくお願いします。

2013年に外部から三越伊勢丹に入社されたという異色の経歴をお持ちの北川さん。飄々とした語り口調の中から、今取り組まれているテーマへの深い想い、三越伊勢丹・愛を感じます。本質を見ている北川さんだからこそ言える、マーケットに対する直球トーク。この勢いで更に後編に続きます。

<三越伊勢丹が考える、テクノロジー×ファッションの本質とは何か?>後編につづく

Text : Miho Iizuka, Photo : Soshi Setani

DiFa編集部



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