Special | 2015.12.22
【前編】ジャーナリスト/コンサルタントの林信行さんに訊く―2015年のデジタルテクノロジー×ファッションの未来のカタチ

【前編】ジャーナリスト/コンサルタントの林信行さんに訊く―2015年のデジタルテクノロジー×ファッションの未来のカタチ

Appleを中心にテクノロジー業界に精通されながらも、それに留まらずさまざまな分野の最新プロジェクトやイベントをご覧になられてきた、ジャーナリスト/コンサルタントの林 信行さん。そんな色々なモノをみてきた林さんが注目された、今年2015年のデジタルテクノロジー×ファッションのトピックス、そして林さんだから見える2016年の未来予測とは? DiFa編集長 市川との対談をお届け。

前編では、今年2015年がデジタルテクノロジー×ファッションにとってどんな年だったのか、振り返ります。

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林 信行(Nobuyuki Hayashi)

ジャーナリスト/コンサルタント
未来の風景をつくるテクノロジー、デザイン、ファッション、アート、教育、医療、そして残すべき伝統を取材しツイート+記事・ブログに執筆。ifs未来研所員/JDPデザインアンバサダー、グッドデザイン賞ほかの審査員。「Nobi」というニックネームで呼ばれることが多い。
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デジタルテクノロジーとファッションの距離が急速に近づいた2015年

市川:今年はApple Watchの登場が象徴するように、次の時代のテクノロジー×ファッションを示唆する動きが、急速に可視化されてきたかと思うのですが、林さんから見た2015年のデジタルテクノロジー×ファッションのホットなトピックスとは、どのようなものでしょうか?

林:「今年はデジタルテクノロジーとファッションの結びつきが一気に進む年だ」っていう記事を年頭にFashionsnap.comで書いたのですが、ほんとその通りになりました。3Dプリンターで造形したドレスやバッグが並ぶ展示会もインパクトありましたし、「TORY BURCH」と「Fitbit」、「Swarovski」と「Misfit」など、ファッションブランドとコラボしたアイテムも一斉に発表になって。そのあと「Apple Watch」が出てきて、「Hermès」とのコラボもありましたしね。

市川:デジタルテクノロジー×ファッションが細分化されだしたというか。

林:そうなんですよ、テクノロジー×ファッションといっても幅広い視点があるんですよね。製造工程、素材、商品、マーケティング宣伝、流通、EC×リテール……、それぞれで大小さまざまなトピックスがあって、振り返るだけですごいことになりますね。

そもそも、テクノロジーとファッションが急速に距離を近づいてきたのは、2007年にiPhoneが登場してからだと思うんですけれど、翌年の「App Store」オープンとほぼ同時に「CHANEL」のアプリが登場して、僕はそこからグッとテクノロジーとファッションの接点や流れが出来てきたと思うんですよね。

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2008年にCHANELがローンチしたiPhoneアプリ。まだiPhoneの画面が小さかったですね……

市川:確かにCHANELは取り組みが早かったですね。

林:そう、あれは衝撃だったんですよ。iPhoneアプリを開いたら、オートクチュールのショー動画が綺麗に観られて、こんなコアな情報が自分の手元で楽しめる時代になったのか、iPhoneってそういうことができてしまうのかって思って。その後、2010年にiPadが登場すると、「Burberry」や「BENETTON(UNITED COLORS OF BENETTON)」では店舗でスタッフが使うようになった。今では多くのブランドの中で、ビジネスやオペレーションツールとして採用されていますよね。コレクションのフロントローでは、iPhoneやiPadでパシャパシャ撮ってSNSにアップするのが普通の光景になってきて。

でもそれって、これまでやっていたことが、テクノロジーを用いて進化したに過ぎない感じはあるんです。2014年頃から2015年にかけては、テクノロジー×ファッションがより本質的に目を覚ましてきたというか、より個人個人、One to Oneなものへと向かっていってる感じがするんです。もっと深いところから融合して、テクノロジーが関わっていくイメージ。

市川:なるほど。そういう意味では、今年はデジタルテクノロジー×ファッションにもフォーカスを置いたイベントやハッカソンも活発でしたよね。

林:そう、まさにこれまで見かけなかったようなプレイヤーや新しい風がどんどん入ってきて。7月に「DECODED FASHION」が日本で開催されたこともそうですし、7~10月には日本で唯一のファッション美術館・神戸ファッション美術館で「デジタル×ファッション 二進法からアンリアレイジ、ソマルタまで」もありましたね。あれ、見に行ったんですけれど、僕が一番印象に残ったのが場内入ってすぐのところに展示されていた、ジャカード織機なんですよ。

ジャカード織機って、どういう風に縦糸横糸を編むかっていう指示が、パンチカードになってるんです。今やパソコンの記録媒体ってフラッシュメモリになっているけど、その前はフロッピーディスクがあり、その前はパンチカードを使っていた。要は、デジタルとファッションは実は昔から近いところにあるんだっていうことが言いたかったらしくて。

市川:それ、見に行きたかったんです。ファッションにおける生産工程や素材開発へのテクノロジー導入のトピックスはGoogleの「Project Jacquard」をはじめ、本当にバラエティに富んでますよね。

林:そうなんです。1月にロサンゼルスで行われた家電の見本市「International CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」とか、DiFaでもレポートされていた8月の「THE FASHION HACK TOKYO 2015」、ほかにApple Storeや伊勢丹の「彩り祭」での展示などテクノロジー×ファッションのイベントが本当にたくさん行われていました。ただ、やっぱりその中で今年のトピックスをうまく象徴していたと思うのは、神戸ファッション美術館の「デジタル×ファッション」展だったかも。あれ、神戸開催だけじゃなくてもっと国内巡回して欲しいですね。

ビジネスとしてのデジタルテクノロジー×ファッションは“個に向かうのか、個に還るのか“

林:デジタルテクノロジー×ファッションの融合で、もう1つ重要なキーワードがdigital fashion ltd. 代表 森田さんが提唱する「B2i(Business to individual)」。「B2C(Business to Consumer)」と言う言葉があるけれど消費者は1人1人体型も好みも違うからテクノロジーを使ってちゃんと1人1人の顧客用にカスタマイズした服を届けるべきというのが「B2i」の考え方。彼は今年、そのために必要な採寸方法の国際標準規格づくりに貢献。その一方で、そうしたカスタマイズ服の販売を「HANAE MORI」と組んで実践。伊勢丹で実験的に販売していました。

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「Hanae Mori Manuscrit」が導入したアプリ「DIGITAL COUTURE HANAE MORI×DIGITAL FASHION LTD.

市川:テクノロジーとファッションが融合したアイテムだったり、その仕組みを利用して生み出した商品を、もうお店で実際に買える状況になってきてるんですよね。DiFaでニュースを取り扱うようになって感じたのは、林さんがおっしゃったような「Business To individual(B2i)」の視点で開発されたサービスがこんなにもあるのかと。”自分だけのオリジナルを、自分で作れる”というニーズが、結構あるんだなと思って。

そんな時代だからこそ、ファッションブランドは、何故ファッションなのか、何故ブランドでなきゃいけないのか、それを突き詰めて考えなくちゃいけない。そうすると、究極のマーケットニーズは、カスタマーケアにもあるような気がしていて。パーソナライズされた接客サービスが、これからより重視されていくのではないかとも思うんです。テクノロジーもブランドも「個」に向いている今、伊勢丹のような百貨店でHANAE MORIが前出のような新しい取り組みをすることができたこと、これはつまり、販売出来るサービスレベルだったということだと思うんですけど、それはすごいことですよね。個人的にあのアプリ自体は、もっと“ファッションっぽく”できるんじゃないかなとは思ったんですけども(笑)。

林:そう、もう現場ではすごいことが起こってるんですよ! もともと衣服って、1人1人誰かのためにオーダーで作っていたわけでしょう? 「Business To individual(B2i)」という考え方も、さっきのジャカード織機の話にも出たように、昔から変わらないところに回帰する。それが近年ではファストファッションや大量生産という不器用なテクノロジーが台頭し過ぎてしまった。今年はテクノロジーが本来のファッション文化を取り戻すために、健全な発展へ貢献するものに使われ始めた年でもあるのかなと。

なぜGoogleやAppleはこのタイミングでファッションへ向かったのか

市川:先ほど出た「ブランドとは何か」というお話は、近年の多くのテクノロジー企業にとっても大きな問いになっていると思うのですがいかがでしょうか。GoogleやAppleが明らかにファッションへと向かっているのも、そこにヒントがあるのかなと。

林:そうですね、さきほどお話にでましたけれどGoogleのProject Jacquardは、素材の中にセンサーを織り込んで、服をさするジェスチャーでスマートフォンを操作することができるようになるというコンセプトのプロジェクトなのですが、まだまだ本当に基礎技術の実験段階だと思うので、あまり彼ら自身もこれから何をしていくか見えてないのかもしれないですよね。

市川:Project Jacquardには日本の織機メーカーさんや職人さんも携わっているんですよね。

林:そうなんですよ。仕掛け人の1人に、福原 志保という日本人のアーティストがいるんですけど、彼女が「ATAP(Advanced Technology and Projects)」っていうProject Jacquardの研究開発チームを、日本に連れてきたことがあるんですね。実際、話を聞いてみると、Project Jacquardの裏側を担っているのは日本の会社が多いんです。

じゃあ、服にセンサーが内蔵されるようになると、それを着る人のライフスタイルはどうなるのかとか、そういった部分はまだ未知の領域でもあるんだけど、日本のファッション業界とGoogleっていう最先端のテクノロジーの結びつきは応援したいし、面白い事例はこれから出てくるんじゃないかなぁ。

市川:国内外で活躍するアーティストから日本の職人まで 、さまざまな人の力を集めて新しいものを生み出し、開発段階からプロジェクトを公開したのはGoogleらしいなあと思いました。Appleの視点ではどうでしょうか。

林:Appleに関しては、ブランディング面での更なる強化でしょうね。スティーブ・ジョブスは、ブランドを作っていくってところに対してすごく長けていたけれども、今のトップのティム・クックは、どっちかっていうと実務を効率よくこなすタイプ。デザイナーのジョナサン・アイブは徹底的にいいものを作ることには長けていても、ブランディングに関してはまだまだ。

だから、ファッションに精通しているBurberry社元CEOのアンジェラ・アーレンツを引っ張ってきて、Yves Saint Laurent元CEOのポール・ドヌーヴを引っ張ってきて、全体を強化してる段階だと思うんですよね。日本企業の場合、ブランドを立て直そうとしてマーケティング部署作ってそこだけ頑張って、実は社内で決壊しているっていうのはよくあるパターンだけど、そうじゃなくて、Appleは何かやろうとしたら、その分野に精通している人をどんどん引き込んじゃう。それ自体がマーケティングになるというか。

市川:ファッションという分野を取り入れることによって、よりAppleのブランド価値が向上し得る、ということでしょうか。

林:そうそう。そこが一番大きいんじゃないかな。いまテクノロジーの世界って、「1日24時間、どれだけユーザーと接していられるのか」がキーになっていて。その際にファッションは無視できない。ジョナサン・アイブだってコンシューマ向けのデザイナーだから、ファッションも勉強してるはずなんですよね。それこそ、デザイン系のイベントもそうだけれど、ファッション系のイベントにも顔を出していて。なんでしたっけ? ニューヨークの毎年セレブが集まる……

市川:あー。「MET GALA」ですね!

林:来年はAppleがスポンサーになるってニュースも。

市川:あの発表があったとき、写真に度肝抜かれて。ジョナサン・アイヴ、アナ・ウィンター、メトロポリタンミュージアムのキュレーターのアンドリュー・ボルトン、この3人の並んでる写真がポロッと出てきた。1年前には絶対に想像つかなかったようなことが起きてるなと実感した出来事でもありました。

林:それ言ったら、去年2014年のパリコレは、ジョナサン・アイブ、アナ・ウィンター、マーク・ニューソン、カール・ラガーフェルドがパリのコレットに集合してたじゃないですか。それもすごいことですよ。    



市川:ちなみに、林さん個人としては、Appleがファッション側へ積極的に歩み寄りはじめたことをどう見られていますか?

林:新しい展開はこれからもどんどん出てくると思いますよ。ちなみに、Appleでアンジェラ(・アーレンツ)は何をやっているかっていうと、Apple製品の売り方全般を見ているんです。例えばApple Storeで、日本だけの施策として福袋企画をやるなんてことは今後はないかも。名物になっている新商品発売前にできるストア前の行列も、これからは一切並べないようになるとか、ね。

市川:そうなんですか!?

林:Appleってある意味古いブランドなので、マニアックなファンがいるじゃないですか。ブランドにとって、マニアックなファンは大事なお客様でありながら、場合によっては敵にもなる。

市川:あぁ……それはありますね……。

林:なんとなく排他的なノリがそこにあると、次のステップへ行きたい時、足かせになっちゃう。クールに路線を切り替えることも、今後は出てくるでしょうね。まさにファッションブランドと同じですよ。

市川:なるほど。あの、少し個人的な話になるのですが、先日Apple Watchの調子が悪くなってApple Storeへ行ったんですね。Apple Watchって、お持ちの方なら解かると思いますが、毎日身に着ける生活必需品でもあるし、自分自身と共生しているような存在になってくるじゃないですか。もちろん、最終的には素晴らしい対応をしていただいたんですけど、そういう“オーナーの愛着”に対するケアを、もう少し頑張って欲しいかなと思ってしまって。

例えば、数百万円の時計や数十万円のバッグや服を買うような、ラクジュアリーブランドのカスタマーケアに慣れてしまっているお客様を、どう接客してブランドとして魅了していくのか、そういうのがちょっと気になってしまったんですよね。実際、「Apple Watch Edition」のような100万円を超えるプロダクトも扱っているわけで。

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林:なんだかんだ言ってAppleはアメリカのブランドですからね。Apple Storeは2001年に出来てからずっと、フレンドリーでカジュアルなイメージじゃないですか? そこが今からラグジュアリーを目指すとなると、これまでやってきたことからどれだけスイッチ出来るのかっていう話はどうしてもありますよね。それこそ、よりパーソナライズされたカスタマーケアがどこまで準備できるのか、ブランドとは何か、という問いに、テクノロジー企業も真剣に答えていかなくてはならない時代になってきたということだと思いますよ。

 

2015年の大きな流れを振り返ると、テクノロジー×ファッションの分野にも様々な視点・観点から、大きな変革期が訪れていることを実感します。テクノロジー×ファッションへの”愛”がダダ漏れのインタビュー。後編ではその未来について。2016年にはどのようなことが起きるのか、林信行さんとDiFa編集長 市川の大胆予測とは……?

<後編へつづく>

Text : Miho Iizuka, Photo : Soshi Setani

DiFa編集部



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