Special | 2015.12.25
【後編】ジャーナリスト/コンサルタントの林信行さんに訊く―2015年のデジタルテクノロジー×ファッションとそれらが描く未来のカタチ

【後編】ジャーナリスト/コンサルタントの林信行さんに訊く―2015年のデジタルテクノロジー×ファッションとそれらが描く未来のカタチ

Appleを中心にテクノロジー業界に精通されながらも、それに留まらずさまざまな分野の最新プロジェクトやイベントをご覧になられてきた、ジャーナリスト/コンサルタントの林 信行さん。そんな色々なモノをみてきた林さんが注目された、今年2015年のデジタルテクノロジー×ファッションのトピックス、そして林さんだから見える2016年の未来予測とは? DiFa編集長 市川との対談をお届け。

先日公開した前編に続いて、後半では2016年の未来予測から、デジタルテクノロジー×ファッションがこれからますます発展していくために必要なことまで、話が広がります。

nobi-nagi_06_1

林 信行(Nobuyuki Hayashi)

ジャーナリスト/コンサルタント
未来の風景をつくるテクノロジー、デザイン、ファッション、アート、教育、医療、そして残すべき伝統を取材しツイート+記事・ブログに執筆。ifs未来研所員/JDPデザインアンバサダー、グッドデザイン賞ほかの審査員。「Nobi」というニックネームで呼ばれることが多い。
ブログ | twitter | Pinterest

2016年は「デジタルテクノロジー×ファッション」の産業化元年になる

市川:林さんから見て、これからもっともっとテクノロジーとファッションの融合を加速していくために、何かここが決定的に足りない、ここを攻めれば圧倒的に優位性があるのに、なんてポイントはありますか?

林:仕組み自体はとても良いのに、ヴィジュアルで損してるケースは多いかな。

市川:ありますね。パッと見て「何これ?」ってユーザーに思われちゃった時点で、結局そのもの自体が機能しないことになってしまうというか。本当にもったいないですよね。例えば、要所要所の絵作りはその道に精通したクリエイターにお願いするとか、ファッションが絡んでくるからこそ、写真とかデザインとか、ヴィジュアルで訴求すべき部分は力を入れて欲しいなと思うことは、個人的にも多いです。

林:特に、日本のテクノロジー業界って、結構男社会なんでね。経営陣も男が多くて、本当にそういう些細な所や見え方をケアしていないというか、機能を満たしていればいいみたいなところが多い。別に変ではないけれど、そこで意固地になって、うちはお洒落じゃなくてもいいんだ、みたいなほうに勘違いしていくのはマズいんですよ。

DECODED FASION」でも、そういう話をしましたね。あのときやっていたスタートアップピッチ(※)で優勝した「Memomi」より、うちのほうがテクノロジーがすごいんだって言ってるチームがいて。で、あっちが優勝しちゃったのがすっごい悔しかったらしいんですよ。だったらカッコ良くしたらいいのにって。女性のデザイナーをもっと入れるとかね。

※スタートアップが主に投資家などに対して自身の製品やサービス、アイデアを紹介する際に行なうプレゼンテーションのこと。DECODED FASHIONには、インタラクティブミラーの「Memomi」や布地用の3Dプリンターを開発した「Electroloom」などが参加しました。

nobi-nagi_01_1

市川:確かに。今お話していたように、そのモノ自体が“カッコいい”ことも大切ですし、何かもうちょっとファッション寄りの人たちを、グッと引き込める仕組みを作ったらいいんじゃないかなと。林さんは、これが出てくればテクノロジー×ファッションにより一層注目が集まるだろうなとか、服としての面白さが出てくるだろうな、と思うものはありますか?

林:Googleの「Project Jacquard」も「adidas」とか「Nike」といったスポーツ系のアパレル企業が絡んでくると、身体の動きといったフィジカルとウェア、そしてテクノロジーが融合できて面白いかもしれない。

あとは「有機的に変わる服」とか良いですよね。例えば、姿勢が悪くなると勝手に教えてくれるとか。そういうのって、もしかしたら昔は衣服のデザインそのものに含まれていたのかもしれないけどね。和服なんて、姿勢が悪かったらすぐ着崩れちゃうし。

市川:服って基本的に人間の身体に合わせて作られているものですけど、逆に“服に人間がハックされていく”みたいな考えは面白そうですね! あとは、素材そのものがテクノロジーの進化で変化していくという流れもひとつありますね。それこそProject Jacquardのように素材自体にセンサーを入れ込むというような考え方もあるし、3Dプリンターでしか作れないものを素材に応用するという流れもあるし。

CHANEL 2015年秋冬オートクチュールコレクションより、3Dプリンターで出力した格子状の資材が用いられています。― Photo by indigitalimages
CHANEL 2015年秋冬オートクチュールコレクションより、3Dプリンターで出力した格子状の資材が用いられています。― Photo by indigitalimages

林:10月にあったデザインイベント「Any Tokyo」で、「MINOTAUR(ミノトール)」がテクノロジーと素材を融合させた服を展示していましたね。

市川:DiFaでも先日インタビューさせてもらっていて。どうでしたか?(立ち合い中の編集部Mに訊ねる)

編集M:思想ですかね、現状。服としてちゃんと成立していながら、実はその中にすごいテクノロジーが入っていて。自然と暖かくなる服とか、素材もすごく優れていて、それは職人仕事だからこそだと思いますし。テクノロジーを自然に入れていくんだ、という思想を、彼らがブランドとしてすごく意識しているのは理解できました。

MINOTAURが生み出した、スマホと連携して温度調節ができるアウター「MINOTAUR I/O COLLECTION」
MINOTAURが生み出した、スマホと連携して温度調節ができるアウター「MINOTAUR I/O COLLECTION」

林:なるほど。まだまだ融合の域までブラッシュアップする余地はありそうですね。

「ファッションを買う」という体験をどうデザインしていくのか

市川:今年はデジタルテクノロジー×ファッションに“ビッグバン”が起きた年だったっていうことだったんですけれども、私としてはわくわくするような話と現実的な話を交互に聞いているような、やはりまだまだ発展途上にあるんだなと感じた2015年でした。そんな2015年を経て、林さんは来年テクノロジー×ファッションがどのようになっていくと予測していますか?

林:テクノロジー×ファッションって、実際いろいろなものを含められてしまうようになるので、そこが逆に課題になるかもしれないですね。

例えば、テクノロジー×ファッションの掛け合わせで、衣服の製造工程が変わる。あるいは、服の素材そのものがデジタルになって、流通の仕方、販売の仕方に変化が出る。ウェアラブルってまさにデジタルとファッションの製造の掛け合わせの商品で、じゃあ「CuteCircut」みたいな存在は、ファッションブランドとして扱うのか、雑貨なのか、家電なのか、そのどちらだけでもなく。現場がもし縦割りになっていたら、お店ではその扱いってどうなるの? なんて話も出てくる。

市川:そうですよね。今までになかったものが誕生しているんですもんね。

テクノロジーを取り入れたコレクションやアイテムを発表しているCuteCircuit ー photo courtesy of CuteCircuit, photographer Fernanda Calfat (Getty Images Entertainment)
テクノロジーを取り入れたコレクションやアイテムを発表しているCuteCircuit ー Photo courtesy of CuteCircuit, Photographer Fernanda Calfat (Getty Images Entertainment)

林:今年のDECODED FASIONはデジタルマーケティングの話が多かったけれど、本格的な「Business To individual(B2i)」の時代へ向けて、売り方のイノベーションが始まるのも来年、2016年でしょうね。すでに、色々な施策や取組みがスタートしているけど、たぶん来年はEコマースとリテールの融合もさらに進化していくと思います。

要は、「ファッションを買うっていう体験を、どういうデザインしていくのか」っていう話で。やっぱりファッションは実質的なものだから、ちょっとしたサイズ違いとか、フィッティングイメージとか、店員さんを煩わせていたカスタマーケアの部分で「Business To individual(B2i)」がもっともっと進んでいくと思いますね。体型をスキャンすると、そのデータにぴったりサイズのものが仕上がったり、在庫を取ってきてくれたりとかね。

nobi-nagi_02

市川:ブランド側も「今、お店でモノが売れない」と囁かれている中、Eコマースにお客様を取られている、って捉え方をされることもあるんですよね。じゃあそこで、実店舗を持っているブランド側がどうあるべきなのかっていうのを、いよいよ真剣に考えて実行に移す時が来たということですよね。

林:そうですね、そこはもう待ったなしです。もう1個、僕が注目してるのは、日本のアパレル工場とか、着物の職人とか、そういう生産背景や職人産業構造の問題ですね。今まで高価だったものを、デジタルテクノロジーを利用することによって、産業を効率化して値段を下げるとか、新たな産業を興していくことができないかなと思ったり。それって伝統を残していく上で、大切なことですよね。ジャパンブランドを発信している「Factelier (ファクトリエ) 」さんとか、頑張ってほしい。

Factelier
Factelier ウェブサイトより

市川:最近「STARted (スターテッド)」っていうサービスを作っている方をお話しする機会がありまして。小ロットに対応できる縫製工場からメゾンブランドを手がけているような工場さんまで、アパレルの生産背景に係わるさまざまな企業や職人をパートナーとして迎えて、ウェブ上からイラストをアップするだけで、その段取りや生産管理までしてくれて、服を作ることができるっていうサービスなんですけど。

「ファッションブランドをはじめよう!」と意気込んだとしても、服を量産するための工場さんとか職人さんとかって、どうやって見つけたら良いのか、コンタクトを取ればいいのか、はたまたどこが自分の作りたいものに合っているのかなんて、特に素人にはわからないし、それを見つけるのは本当に大変なんですよ。それがSTARtedのようなサービスができたことで、一般の人でもウェブから手軽につながれるようになったということ自体、今だからできるようになったことであって。

日本の縫製工場とか職人的世界って、後継者が居ないとかで縮小傾向にあるといわれていますが、FactelierとかSTARtedというようなサービスが起っていくことが、結果的にファッション・アパレル産業の土台ともいえる生産背景を強化していくことにつながれば素晴らしいなと思いました。

林:「NUTTE(ヌッテ)」とかご存知ですか、クラウドサービスみたいなもので、縫って欲しいアイテムを、1点から頼めるんです。

市川:あぁ、これもまさに作りたい人と作る側をマッチングする仕組みですよね。この手のサービスは2016年、増えていきそうな気がします。テクノロジーの進化や時代の変化で、廃れていく、代替されていく、なくなっていく製造過程や素材があるとして、そうなったときにその生産背景や工場をどう活用していくのかって、今後すごく大事だなと思っています。

2016年の注目分野、注目サービスは?

市川:テクノロジーがより深いところで“個”に向かう、「Business To individual(B2i)」というキーワードがまず前提にあって。そこに、日本の誇る職人技術と最先端のテクノロジーを融合させるGoogleのProject Jacquardのような取り組みも出てきた。それ以外で、林さんご自身が注目されているものはありますか?

林:いわゆるオムニチャネル的な売り方は、まだまだ発展していくと思うし、生産背景と個人のマッチングサービスも取っ掛かりの出来たところから一気に発展していくと思います。

あと、3Dプリンティングとファッションの関係って、まだちょっとクオリティとして難しいかなって思っていたのが、2016年ぐらいからちょっとずつ事例に目が慣れていって、いろんな人が話題にしていって、もっと活性化されていくと思うんですよね。(参考:身近になった3Dプリンティングはファッションの何を変えるのか―ファッションと3Dプリンティング【前編】

市川:コレクションレポートを見ていても、たまにキーワードとして「3Dプリンティング」というワードを見かけるんですけど、まだ話題づくり止まりなのかなってとこもありますが、確かに目は慣れてきたかも。ただ、やっぱり服に用いるには、あのプラスチック感のある素材感が難易度高い。そこを解決する新しい素材が生まれない限り、アクセサリーや小物などのほうが向いているのかなと。

林:固い樹脂を使うことが多いので、小物かなって思いますけど、全然柔らかい素材も作れるんですよ。1月にロサンゼルスで行われた家電の見本市「International CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)」に行った時も、3Dペンの「3Doodler」を使ってコートを作ってきました。ビニールに近い素材かな。

市川:へー! おもしろい。ペンってサラサラーッと絵をかくだけで、立体物が作れちゃうんですね。これ、いいなぁ。

林:海外では「Business To individual(B2i)」のような概念や的確な言葉はないけれど、その思想はそこにある、という感じはします。自分ぴったりサイズのイヤホンだとか、解りやすいところだと女性の下着とか。鏡に向かって自分の写真を撮ると、サイズがわかるといったサービスもあれば、巻尺を印刷して図るタイプもあります。あと、服みたいなのを1回着て、それを脱ぐと体型が記録されて、その体型データがスマホにすぐ送られるみたいなサイジングサービスもあったな。

市川:「LIKE A GLOVE」ですか? 服にセンサーが入っているってことですよね。

林:そうそう。じゃあ、現状はパーツに絞ってリリースしたってことですね。

市川:このLIKE A GLOVEって、センサーと導電性繊維を搭載したレギンスを履くと、サイズデータがスマホに入ってきて、そこから尚且つ色んなEコマースサイトに繋がって、自分にぴったりサイズのデニムを勝手に探してきてくれるんですよ。これは結構、周りでも普通に欲しい、やってみたい、って声も多かったでですね。

林:なるほどね。この、デジタルの素材使った衣服とかも面白そうなんだけど、結局自分が着れるのかっていう。

市川:ほんと、それなんです。「CuteCircuit」の服とかも、ショー的な意味で見ると可愛いけど、さすがに街でお洒落としてピカピカLEDが光る服を着たいかといったら「?」が浮かびますよね(笑)。ウェアラブル系のアイテムにも特に言えると思うですけど、そのモノ自体、テクノロジーの要素が無くなっても欲しいと思えるのか、必然性がないと。

林:テクノロジーとファッションが融合して、さらに日常化するためには、どちらかだけの発想を押し付けていてもチグハグなものにしかならないですからね。

市川:デジタルテクノロジー×ファッションの分野でサービスを展開していても、アウトプットは自分のとこだけ、といったように断片的に考えている人が多くて、すごいもったいないなと私は思っていて。そこは柔軟に考えられる人が適材適所で入って、ちゃんとユーザー、お客様との縁を結んであげるってことが今後は必要になっていくんでしょうね。

nobi-nagi_top

2015年はテクノロジー×ファッションのビッグバンが起きた年、そして2016年には産業革命が起きるという大胆な予測も飛び出しました。妄想に終わっていたようなことが、実際に形になって目の前に現れる時代。ワクワクするような未来を語っているだけではダメで、本気でこの分野に取り組むには「実際に着用出来るのか」「日常的に実用化されるのか」という現実的な視点を外さないことが大切になっていくのかもしれませんね。

林 信行さん、どうもありがとうございました!

Text : Miho Iizuka, Photo : Soshi Setani

DiFa編集部



PICK UP

SPECIAL

LATEST

BUSINESS
LATEST