Special | 2015.12.24
【前編】2015年のデジタルテクノロジー×ファッションから2016年を考える―ウェアラブルデバイス市場の本格化/オンラインコマースの方向性

【前編】2015年のデジタルテクノロジー×ファッションから2016年を考える―ウェアラブルデバイス市場の本格化/オンラインコマースの方向性

2015年も残り僅かということで、ファッションとデジタルテクノロジーという視点から、4つのトピックをピックアップ。この一年の出来事を振り返りながら、来年2016年以降の動向を占っていきたいと思います。

前編は、今年ますますバリエーションも豊かになったウェアラブルデバイス、そして2大大手オンラインコマース「NET-A-PORTER」と「YOOX」の合併が示したオンラインコマースの未来の方向性、まずこの2つのトピックについて紐解いてみましょう。

1. ファッションアイテムとしてのウェアラブルデバイス市場の本格的な立ち上がり

Apple Watchの発売、そして時計メーカー、ファッションブランドによるウェアラブルデバイスへのアプローチがはじまった

やはりファッションにおけるデジタルテクノロジーに関する、今年の最も大きな話題は、長く待たれた「Apple Watch」の発売になるのではないでしょうか。

applewatch
Anton_Ivanov / Shutterstock.com

Appleから販売台数などの具体的な数字は提供されていませんが、各種の市場調査を見る限りでは、当初予想されていたような爆発的な普及には遠い数字ではあるものの、ウェアラブルデバイス市場の出荷台数において、既に「Fitbit」に次ぐ位置を占めるようになっています。

9月には「Hermès(エルメス)」‎とのパートナーシップによる「Apple Watch Hermès‎」を発表し、10月に発売。「ファッションアイテムとしての普段使いに耐え得る数少ないスマートウォッチ」としての位置づけを、より強固なものとしています。年末商戦で売上をかなり伸ばすのではないかという予測も出ているので、今年の第4四半期にはFitbitを出荷台数でも一時的に逆転するような動きもあるかもしれません。

Apple Watchに関しては、登場が噂される第2世代の機能的なアップデートに加え、Hermès‎と同様のファッションブランドとのコラボレーションや、ベルトなどのアクセサリーでサードパーティ製品を認めるかどうかなどが、来年注目すべきポイントになりそうです。一方で、価格面で大きな変更がないかぎり、一般的な普及ペースは早くはならないのではという印象も。

そして、Apple Watchの登場によりビジネス面での影響を受けるのではないかという声もあった、スイスを中心とする時計メーカー側も本格的にスマートウォッチの投入を開始。LVMH傘下の「TAG Heuer(タグ ホイヤー)」は、GoogleとIntelとのパートナーシップを組み、シグニチャーモデルである「Carrera」をベースにした「TAG Heuer Connetcted」を165,000円で11月に発売。好調な需要を受けて、早速増産することが発表されています。

11月に発売された TAG Heuerのスマートウォッチ、TAG Heuer Connected
11月に発売された TAG Heuerのスマートウォッチ、TAG Heuer Connected

なお、このTag Heuer Connetctedは、Intelが製造していることもあり、これまでのような”Swiss Made(スイス製)”ではなく、”Swiss Engineered(スイス設計)”という表記が使われています。これに関して、Tag HeuerのCEOのジャン=クロード・ビヴィエ (Jean-Claude Biver)は、

For a traditional mechanical watch, ‘Swiss Made’ is a reference and criteria of reliability and quality. For a connected watch, Android from Google and Intel Inside are the criteria of quality and reliability.
― forbes「Tag Heuer Connected Smartwatch Teased Ahead Of November Launch」より

とコメントしています。もちろん、セールストーク的な要素もあるとはいえ、製品のデジタルテクノロジーに拠る部分のクオリティの担保にあたって、既存の時計メーカーやファッションブランドが今後どう取り組んでいくのかということも、注目すべきポイントであるように思います。

また、時計メーカーにとって、スマートウォッチという新しい分野の商品そのものが、「腕に時計をつける」という習慣から遠ざかっていた層の呼び戻しや、これまで時計に興味を持っていなかった新しい層を取り込む大きな機会になるともいえるでしょう。来年はより多くのブランドから「市場テスト以上の意味合いを持った」本格的な製品が出てくることが予想されます。

ファッションブランドでは、デジタル関連の取り組みで先行している「REBECCA MINKOFF(レベッカ ミンコフ)」や「TORY BURCH(トリーバーチ)」からブレスレットタイプのウェアラブルデバイスが登場しており、来年も新たなブランドの参入が続くことになるでしょう。

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REBECCA MINKOFFが発売したウェアラブル「Notification Bracelet」― REBECCA MINKOFF ウェブサイトより
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TORY BURCHが発売したウェアラブル「TORY BURCH For Fitbit」― TORY BURCH ウェブサイトより

2016年は「ウェアラブルデバイスが必要なのか?」本質的な部分が問われるようになる

一方で、スマートフォンのリモートコントローラ的な機能が主となっているスマートウォッチをはじめ、ウェアラブルデバイスを身につけて使うということについて、その新しさだけで関心を集める段階から本質的な有用性を問われるのが2016年になってくるのではないでしょうか。

ウェアラブルデバイスは、「なくてはならない機能的な有用性」と「継続して身につけたいと思わせるファッション性」という2つの要素をバランスよくアップデートしていく必要がある難しい領域でもあり、しばらくはファッションブランドとGoogleやAppleといったテクノロジーを提供する企業の双方による試行錯誤が続いていくのではないかと思います。

2. 大手オンラインコマースサービスの新展開

2大大手オンラインコマース「NET-A-PORTER」と「YOOX」の合併が示すもの

今年、2015年はラグジュアリーブランドを中心に扱うオンラインコマースの分野でも大きな動きがあった年でした。

一番大きな出来事はオンラインコマースを展開する2社、NET-A-PORTER(ネッタポルテ)とYOOX(ユークス)の合併です。インシーズンのオンラインコマースを手掛けるNET-A-PORTERとオフシーズンのオンラインコマースを手掛けるYOOXという、両分野における最大手の合併で誕生した、YOOX NET-A-PORTER GROUP。合併により売上は年間で13億ユーロ(日本円で約1,700億円)の規模に。NET-A-PORTERの親会社であったラグジュアリーコングロマリットのRICHEMONT(リシュモン)が50%を所有し、CEOにはYOOXの創業者であるフェデリコ・マルケッティ(Fedelico Marchetti)が就任しました。

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「YOOX.COM」と「NET-A-PORTER」― YOOXウェブサイトNET-A-PORTERウェブサイトより

YOOXのような、最新のコレクションを扱わないオフシーズンのビジネスは、ここ数年特にアメリカを中心にオフプライス市場が着実にしていることからも、手堅い分野であることは間違いありません。一方で、オンラインという観点からすると成長余地が大きいのは、やはりまだオンライン化が十分に進んでいるとは言い難い、最新のコレクションを扱うインシーズンのビジネスでしょう。YOOXの効率的なオペレーションをベースに、NET-A-PORTERのファッション誌のようなリッチなエディトリアルなどの見せ方や良質なカスタマーサービス、そしてブランドの獲得力を乗せることで、この分野で圧倒的なボジションを築こうという意図が感じられます。

合併の過程においては、NET-A-PORTER側の少数株主の反対や、新会社では会長として、エディトリアルなどクリエイティヴ面をサポートする予定だったNET-A-PORTERの創業者のナタリー・マスネ(Natalie Massenet)が去るといった動きも。そうした面にも配慮してか、合併後は人員面のリストラは行わずに、NET-A-PORTERのビジネスの幹部登用も旧会社からの内部昇格を中心とする人事が発表されました。また、旧YOOX傘下のシューズに特化した「SHOESCRIBE(シュースクライブ)」やデザイナーズブランドに特化した「THE CORNER(ザコーナー)」を整理し、インシーズンはNET-A-PORTERに一本化するなどNET-A-PORTERとYOOX両社のビジネスと文化の融合に早々に着手しています。

YOOX NET-A-PORTER GROUPが現在手がけている6つのオンラインストア。他に「 VALENTINO(ヴァレンティノ)」「LANVIN(ランバン)」などのオンラインフラッグシップストアも彼らが手がけています。― YOOX NET-A-PORTER GROUP ウェブサイトより
YOOX NET-A-PORTER GROUPが現在手がけている6つのオンラインストア。他に「 VALENTINO(ヴァレンティノ)」「LANVIN(ランバン)」などのオンラインフラッグシップストアも彼らが手がけています。― YOOX NET-A-PORTER GROUP ウェブサイトより

ファッションメディアにもデジタルを軸にした再編の波が
こうした動きに反応するかのように、収益源の多様化を模索するメディア側からも大きな動きがありました。

「VOGUE」をはじめ、数多くの雑誌ブランドを抱えるCondé Nast(コンデナスト)が、オンラインのコレクション速報メディアの先駆けとして、その地位を揺るぎないものとしている「STYLE.COM」をグローバルなオンラインコマースサイトとしてリローンチすることを発表。アメリカ以外のビジネスを管轄しているCondé Nast Internationalとの共同プロジェクトとして、ロンドンに拠点を置き、まずはイギリスからサービスをスタートさせる予定。次にアメリカへの展開という流れで検討しているようです。

同部門のプレジデントには、パリの有名百貨店Galeries Lafayette(ギャラリー・ラファイエット)でオンラインコマースを統括していたフランク・ザイアン(Franck Zayan)が就き、NET-A-PORTERやFarfetch、ASOSといったオンラインコマースを手掛ける企業から人材を集めているとのこと。また、この事業に対しては、向こう2年から3年で1億ドル(日本円で約120億円)規模の投資を計画しているとされ、Condé Nastの本気度が伝わる内容となっています。

当面は、自社で在庫は待たない「マーケットプレイスモデル」での展開のようですが、複数のサイトでの購入もひとつのカートにまとめて決済できる「ユニバーサルチェックアウト」を取り入れるなど、購入者の利便性は担保した形になる模様。また、Condé Nast傘下の各誌から記事の内容自体をSTYLE.COMへの誘導を前提につくるといったことはせず、エディトリアルとコマーシャルの分離は継続するとのことですが、各誌のコンテンツからの商品へのアクセスのしやすさは配慮した設計となるようです。

成功の可能性については未知数ではありますが、メディア側のユーザの行動履歴なども有効に活用できれば、大きな力を発揮するのではないでしょうか。

ファッションメディアにもデジタルを軸にした再編の波が

また世界各地のブティックをオンラインを介してネットワーク化し、グローバルなユーザに提供してきたFarfetch(ファーフェッチ)も着実にビジネスを拡大しています。

farfetch
Farfetchウェブサイトより

Farfetchは今年3月に8,600万ドル(日本円で約104億円)の追加の資金調達を行ったほか、ロンドンの老舗スペシャリティストアであるBrowns(ブラウンズ)を買収。Brownsは実店舗での革新的なサービス開発のラボ的な役割も担い、Farfetchに参加しているブティックに対してアイデアを展開していくという構想も進めていくようです。

そして、ファッションブランドに対してオンラインとオフラインの双方のバックエンドのサービスを提供する「モノブランドビジネス(※)」にも参入を発表。Farfetchは「SAINT LAURENT(サンローラン)」や「BOTTEGA VENETA(ボッテガベネタ)」などのKering傘下ブランドや「GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)」といったラグジュアリーブランドのオンラインコマースを一手に引き受け、この分野で先行しているYOOXとも競合していく形となります。

※ファッションブランドのオンラインコマースサイトの構築、カスタマーサポートや物流まわりを含めた運営を請け負う事業のこと

この動きは、ファッションブランドによるFarfetchへの直接出店を加速させる効果がありそうです。一方で、ファッションブランドにとっては卸先であるFarfetchに参加しているブティックとのグローバルな価格差のコントロールなど、ブランドとブティックがオンライン上で並列に並ぶことで生ずる細かな問題にどう対応していくのかということも、気になるポイントではあります。

大きく成長を続けるファッションレンタルサービス

ファッションのオンラインコマースの分野では、レンタルサービスも引き続き大きく成長しています。

先駆者的な存在である「RENT THE RUNWAY」の今年のレンタル数は販売額に換算すると、昨年の5億ドル(日本円で約600億円)から13.5億ドル(日本円で約1600億円)規模にまで拡大する見込みとのこと。サイトやロゴのリニューアルも進め、幹部人材を積極的に外部から登用するなど、順調に成長の階段を上っているように見えます。

Rent The Runway
ファッションレンタルサービスをリードする RENT THE RUNWAY ― RENT THE RUNWAY ウェブサイトより

RENT THE RUNWAYよりカジュアルなブランドを中心に提供している、サブスクリプション型の「Le Tote」も今年2回の資金調達を実施し、既に年間で1000万ドル(日本円で約12億円)を超える売上になっている模様。レンタルサービスは、日本でもLe Toteと同様のビジネスモデルを採る「airCloset」などのサービスが立ち上がっており、今後も注目していきたい分野です。

― airCloset ウェブサイトより
airCloset ウェブサイトより

ラグジュアリーブランドの中には、まだ本格的にオンラインコマースへ参入していないブランドも多くありますが、実験的な試みもいくつか見られました。

「CHANEL(シャネル)」は4月にファインジュエリーの「Coco Crush」を3週間限定でNET-A- PORTERでテスト販売。また「Dior(ディオール)」はホリデーシーズンに合わせて、シューズをNYの高級デパートBergdorf Goodman(バーグドルフ グッドマン)の実店舗とオンラインの双方で展開しています。「CELINE(セリーヌ)」など、当面オンラインコマースに参入する計画がないことを繰り返し表明しているブランドもありますが、「ポップアップ的なオンラインコマース」という形でのテストは来年も見られるのではないかと思います。

 

<2015年のデジタルテクノロジー×ファッションのトピック4つから2016年を考える>後編では、ファッションブランドのソーシャルメディア活用、そして実店舗への導入の流れが加速しはじめたデジタルテクノロジーについて考えます。

Text : koso

DiFa編集部



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