Special | 2016.01.04
ファッション×テクノロジーの未来を予測する近道は「過去と現在を知ること」【3】──アーキテクチャとしての「WEAR」

ファッション×テクノロジーの未来を予測する近道は「過去と現在を知ること」【3】──アーキテクチャとしての「WEAR」

※こちらの記事は先日公開した『ファッション×テクノロジーの未来を予測する近道は「過去と現在を知ること」【2】──東京ガールズコレクションはなぜファッションショーを行うのか』の続編です。

「今日の晩ご飯はおでんを作ろう」、「今日は寝ずに原稿やろうかな」、「この服かわいい!買う!」など、私たちは常に何らかの行動を選択しています。「選択」という言葉を使うと、主体的な意志によって決断をしているような印象を受けますが、はたして本当にそうなのでしょうか。時にはなにか自分の意志とは異なるものによって選択を誘導されてはいないでしょうか。

環境を管理することによって人々の行動を規制する「アーキテクチャ」という概念

その一例として、「アーキテクチャ」という概念があります。これは、アメリカの法学者ローレンス・レッシグ(Lawrence Lessig)が、「法」「規範」「市場」とならんで人々の行動を規制する方法のひとつとして提唱したものです。

Creative Commonsの提唱者であり、最近では2016年アメリカ大統領選挙への出馬を表明し(のちに辞退)話題となった、米ハーバード大学法学部教授のローレンス・レッシグ ― By Robert Scoble from Half Moon Bay, USA (Larry Lessig) [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons

たとえば、喫煙を抑制したいと考えたとき、「法律や条例で取り締まる(=法)」「喫煙は健康を損ねると周知する(=規範)」「たばこの価格を上げる(=市場)」といった方法がすぐに思いつきますが、それ以外に「たばこの販売場所をなくしてしまう」という手段もありえます。このような、「環境を管理すること」によって人々の行動をコントロールするものが「アーキテクチャ」です。他には、ファストフードのお店であえて硬く座り心地の悪いイスを設置することで、客が短い時間で席を立つよう仕向け、回転率をあげるといった例もあります。

いま挙げたものは現実世界における事例ですが、アーキテクチャという考え方はむしろインターネットの世界においてとりわけ有効なものになりえます。社会学者の濱野智史さんの『アーキテクチャの生態系』や美術家の黒瀬陽平さんの『情報社会の情念』などをはじめとして、サブカルチャーにおけるアーキテクチャの重要性が論じられることはしばしばあるのですが、ファッションにおいてそうした議論はあまり見られません。

たとえばスタートトゥデイが提供するファッションコーディネートアプリ「WEAR」。ユーザーが自分のコーディネートを投稿し、それに他のユーザーから「いいね」やコメントがつけられるというもので、一部の商品に関してはECサイトであるゾゾタウンへの誘導がされます。表面的に見ると、ゾゾタウンへの誘導による商品の販売がスタートトゥデイにとってのメリットだと思われるかもしれませんが、それが主なものではありません(もちろん、それもひとつではありますが)。「WEAR」において重要なのはむしろ、情報収集という観点です。

「WEAR」は単なるコーディネートアプリではない

雑誌で流行だといわれるアイテムが実際に街でどのくらい着られているのかを調査する方法として、昔から定点観測という方法があります。たとえばトレンチコートが流行っているとしたら、調査者が街に立って、トレンチコートを着ている人がどれだけいるか数えるというものです。この方法は流行を数値化できるため、データとしてはとてもわかりやすいのですが、いかんせん人手と時間がかかります。

street
Thomas La Mela / Shutterstock.com

一方のWEARは「タグづけ」機能によって、トレンチコートを使ったコーディネートの投稿数がわかるだけでなく、そのコーディネートがどれだけ見られたか(PV)と「いいね」の数によってどれだけ支持されているかも可視化されるのです。いま流行しているもの、そしてこれから流行しそうなもの(「急上昇」ワードをユーザーが見ることもできます)が数値で表されたデータは、あらゆる企業がのどから手が出るほど欲しい情報ではないでしょうか。

しかも、一旦システムさえ作ってしまえば、ユーザーが自発的にこのアプリを利用することでデータ収集が自動的に行われていきます。つまり、「WEAR」はユーザーが情報提供するように促す、きわめて優れたアーキテクチャなのです。

wear
(左)写真を探そうとすると、「急上昇」しているキーワードが表示される。(右)トレンチコートで検索して表示された画面。膨大な数のコーディネート写真が投稿されている。

残念ながら、ファッションは他の分野に比べて理論化が遅れていることは否めません。上述の「WEAR」についての分析は、ファッション業界だけを見ているとなかなか気づきにくいでしょう。ファッション業界におけるさまざまな事象・現象を分析するためには、現在、他の分野でどのような概念が重要になっているのか、どのような分析がなされているのかを知ることがきっと助けになるはずです。そうすることで、きたるべきファッションの未来についても考えやすくなるのではないでしょうか。

Text : 蘆田 裕史

DiFa編集部



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