Special | 2016.03.01
【前編】デジタルシフトで変革期を迎えるファッションシステム

【前編】デジタルシフトで変革期を迎えるファッションシステム

インターネットの利用が一般に浸透し、スマートフォンをはじめとするモバイルデバイスが普及していったこの20年あまりで、日常的に情報を得る媒体が従来の紙やテレビからオンラインメディアへと大きくシフトしつつあります。

これらの動きがもたらす情報へのアクセスのオープン化と消費サイクルのスピードの加速は、さまざまな分野に影響を及ぼしており、これまでのコラムでも触れてきたように、ファッションも例外ではありません。むしろ、提供する情報をコントロールすることでトレンドやそれぞれのブランドイメージに消費者を誘導してきたファッション業界は、オンラインメディアやソーシャルネットワークの普及により最も大きな影響を受けている分野のひとつと言っても良いかもしれません。

そして、この情報を巡る消費者の行動の変化は、現在のファッションシステムの根幹をなすコレクションのサイクルにも、変革を迫りつつあります。

BURBERRY, TOM FORD, TOMMY HILFIGER……既存のファッションシステムを見直す動き

先日「BURBERRY」が、今年9月に発表するコレクションから、シーズンレスかつ、今まで別々に発表されていたウィメンズとメンズのコレクションを合わせた内容とし、ランウェイショーでのお披露目直後から、オンラインストアのみならず、実店舗でも販売することをアナウンスしました。

従来のファッションシステムのサイクルでは、9月のファッションウィーク期間中には、翌年明けから徐々にデリバリーが始まる「春夏コレクション」を発表するのが通例です。誰しもが最新のコレクションのルックを発表と同時に見ることができるようになった現在、実際に商品を手にするまで半年近くも間が開いてしまう従来のサイクルが適切なのかという課題意識は、コレクションスケジュールの過密化と合わせて、シーズンを追う毎に大きくなっていました。

BURBERRYのみならず、「TOM FORD」や「TOMMY HILFIGER」も、同様の方向性を打ち出すアナウンスを相次いで行っており、現在のファッションシステムそのものが抱える問題を打開するための模索が具体的な形で、ようやく動き始めたという印象です。

このコラムでは、こうした大きな動きをもたらすに至った過程と、今後起き得る変化について考えてみたいと思います。

1. コレクションのサイクルの現在

まずは現在のファッションシステムの基本的なサイクルを改めて振り返ってみましょう。

多くのブランドやデザイナーは、1年を大きく「春夏」と「秋冬」の2シーズンに分けてコレクションを組み立て、ビジネスのサイクルを回しています。それぞれの季節の頭から商品を販売できるようにスケジュールを組むことになるわけですが、起点となるコレクションの発表は、店頭に並ぶ半年ほど前に行われるのが基本です。

百貨店やセレクトショップのバイヤーは、ランウェイやプレゼンテーションでコレクションのテーマやテイストを把握し、展示会で具体的な商品をチェックしてオーダーをつけていきます。デザイナーやブランド側は、場合によってはジャーナリストの批評やメディアでの評判も見ながら、最終的な生産数を決定し、素材の調達と工場への発注を行います。

そして、実際に商品が店頭に並ぶタイミングに向けて、キャンペーン展開、雑誌での表紙やエディトリアル(編集ページ)を含めた紹介や、セレブリティへの貸し出しなどでメディアへの露出を図り、新しいシーズンのコレクションを盛り上げて実際の売上をつくっていくというのが、おおまかなビジネスサイクルとなっています。

現在のファッションシステムの基本的なサイクル
現在のファッションシステムの基本的なサイクル

このコレクションの発表の場として、一般的に最も知られており規模も大きいのが、ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、そしてパリの各都市で開催される、ウィメンズの4大ファッションウィークです。

 lev radin / Shutterstock.com
lev radin / Shutterstock.com

春夏は9月上旬から、秋冬は2月上旬から、それぞれ上記の各都市の順に約一ヶ月に渡って行われるというスケジュールで、1999年以降定着しています。ファッションウィークの成り立ちは都市により異なりますが、デザイナー団体により組織立って運営されるようになったのは、ミラノの1958年を皮切りに1970年代から1990年代にかけて、徐々に進んでいった形になります。

年2回のウィメンズのファッションウィークに加え、6月と1月にはメンズのファッションウィークとウィメンズのオートクチュールのウィークも行われています。

メンズのファッションウィークは、ロンドンからスタートし、フィレンツェでの見本市「ピッティ・イマジネ・ウォモ」を挟んで、ミラノ、パリの順で開催。そのままパリでウィメンズのオートクチュールのウィークが続きます。昨年7月からは、オートクチュールの後のスケジュールとしてニューヨークのメンズのウィークがスタートしました。

これらのメインのコレクションに加えてこの数年の間に、ブランドやデザイナーがビジネス面でより重要なコレクションとして力を入れているのが、春夏と秋冬の間を埋めるプレコレクションです。

ショー形式での発表が行われることは殆どないため、ファッションウィークとしてまとまって組織だって開催されるわけではありませんが、5月から7月にかけてと、12月から2月にかけての年2回、断続的に展示会やルックの発表が行われていきます。

プレコレクションにブランドやデザイナーが力を入れるのは、メインのコレクションのイメージをベースにしつつ、よりウェアラブルな商品を頻繁に届け、売り場を新鮮に保つことが大きな目的です。より長く店頭に並ぶコレクションであることから、ビジネス的に大きな割合を占めるブランドも増えてきています。

プレコレクションを発表するブランドも増えて、近年過密化の一途をたどるファッションウィークのスケジュール
プレコレクションを発表するブランドも増えて、近年過密化の一途をたどるファッションウィークのスケジュール

このように年間を通して、絶え間なく何らかのコレクションが発表されているのが現状です。またファッションウィークにおいても、シーズン毎に新たなデザイナーが参加していくためショーやプレゼンテーションの数は増える一方。過剰なコレクションサイクルと過密するスケジュールにどう対処していくかが、業界全体の課題となっています。

2. コレクション報道の在り方の変化

ここ20年ほどの間に、コレクション報道の在り方も大きく変化しました。

インターネットが普及し、オンラインメディアが登場するまで、一般の消費者がコレクションの内容をいち早く網羅的に知りたいときの情報源は、日本であれば「FASHION NEWS」や「gap PRESS」といったコレクション誌やテレビ番組の「ファッション通信」が主なメディアでした。こうしたメディアが伝える情報は、コレクションの発表から少なくとも1ヶ月以上のブランクがあったわけですが、当時はそうしたサイクルが当然のものとして受け入れられていたのです。

インターネットが普及し始めると、海外では1995年にスタートした「firstVIEW」を皮切りに、クリス・ムーア(Chris Moore)による「Catwalking.com」など、ランウェイの写真をストックするサイトがフォトグラファーらにより立ち上げられます。そして2000年には、米コンデナストが雑誌の「VOGUE」と「W」のオンライン版として、「Style.com」をスタート。

style.com
現在は「VOGUE」ウェブ内に吸収されたStyle.com。こちらは2002年のStyle.comトップページ。― Internet Archive Wayback Machineより

中でもStyle.comのコレクション速報は、主要なデザイナーの最新のランウェイやプレゼンテーションの全ルックを、ショーから数日内にレビューとセットで伝えるという画期的なものでした。従来の専門家による批評に加えて、速報性や網羅性、また過去のコレクションなどのアーカイヴへのアクセスの容易さといった機能的な利便性が、コレクション報道において大きな位置を占めるようになり始めたのがこのタイミングです。

ただこの段階では、発信主体は雑誌等の従来のメディアであることには変わりはなく、あくまで伝える手段としてオンラインメディアが加わった形でした。そうした状況から発信主体を大きく広げるきっかけとなったのは、ブログに端を発するソーシャルメディアの興隆と、その発見と拡散に大きな役割を果たしたGoogleをはじめとする検索エンジンの利用の普及です。

ブロガーの台頭とソーシャルメディア

手軽に個人でつくれるオンラインサイトとして、2000年台半ばから急速に広まったブログの中から、さまざまな分野でアマチュアながら専門知識やセンスで注目を集めるブロガーが登場するようになります。これらのブログは、検索エンジンを使ったキーワード検索を通じてリーチを広げながら、一般の消費者にも大きな影響を与えるようになっていきます。

ファッションの世界でまず注目されたのは、自らのコーディネートをブログ公開するスタイルブロガーでした。ブライアン・ボーイ(Bryanboy)や、現在はジャーナリストとして活躍しているスージー・ロウ(Susie Lau)、自身のファッションブランドを持つにまで至ったキアラ・フェラーニ(Chiara Ferragni)などがその代表例です。12歳からブログでファッション批評を始めて話題となり、メディアの運営もしながら現在は女優としても活動しているタヴィ・ゲヴィンソン(Tavi Gevinson)のような例も挙げられるでしょう。

Makeup by @patmcgrathreal, photo by @sofiamalamute ????

Tavi Gevinsonさん(@tavitulle)が投稿した写真 –

19歳になった今、ファッションアイコンとしてだけではなく女優としても活躍するタヴィ・ゲヴィンソン

ファッションブロガーの影響力に着目したファッションブランドは、話題集めを目的に次々に彼らをランウェイショーのゲストとして招待するようになります。そこで彼らは、自身のブログに載せるためにフロントローからショーの模様を撮影するという、これまでのバイヤーやエディターには考えられない行動をとります。

この新たな動きが、同時に進んでいたTwitterやInstagram等のソーシャルネットワークとスマートフォンの普及により勢いを得て、ショーやプレゼンテーションの会場にいる誰しもが、最新のコレクションのショーでのお披露目と同時にオンラインに写真や動画をアップロードし、それがソーシャルネットワークを通じて拡散していくという、いまでは当たり前の光景につながっていくことになります。

Eugenio Marongiu / Shutterstock.com
Eugenio Marongiu / Shutterstock.com

既存のメディア側もコレクション速報の体制をさらに充実させています。ショー直後にコレクションの全ルックがサイトに公開されるのは、最早当然。クローズアップしたルックのディテールや、ビューティを含めたバックステージの様子、フロントローのゲストの顔ぶれや会場の雰囲気なども合わせて提供されるようになっています。

ソーシャルメディアに溢れる写真や動画と合わせて見ることで、場合によってはその場にいるよりも、コレクション全体の雰囲気を詳細まで含めて瞬時に捉えることができる段階まで来ているのではないでしょうか。

情報量の増加と情報流通スピードの加速化が及ぼした影響

こうした情報量の爆発的な増加とその流通スピードの加速化が消費者に利便性の向上をもたらした一方で、気になる傾向も見受けられるようになっています。

情報量が多くなると、消費者はその取捨選択が難しくなり、ヴィジュアルインパクトの強さに影響されやすくなりがちです。また、速過ぎる情報サイクルは、ひとつのコレクションへの興味を短命にし、常に新しいものを求める動きにつながっていきます。

発表されてから実際に商品を手にするまで、半年近くも待たなければならないという状況は、オンラインコマースの普及とサービス向上で、翌日や即日の配送も特別ではなくなったいま、消費者の要求に応えきれないモデルになってきている点は否定できません。最新のトレンドを取り入れた商品をいち早く安価に提供するZARAやH&Mに代表されるファストファッションの人気も新しさを求める消費者の購買に影響しているでしょう。コンサルティング会社のOpen Mind Strategyは、こうしたマインドを「IWWIWWIWI (I want what I want when I want It)」と名付けています。

しかしコレクションの発表と同時に販売するためには、消費者やバイヤー、ジャーナリストの反応を見ずに、商品の生産を進めなければならず、現在のファッションシステムのサイクルのまま、こうしたリスクが取れるブランドやデザイナーは限られます。

(後編に続く)

コラム『デジタルシフトで変革期を迎えるファッションシステム』後編は3月3日(木)公開予定です。

Text : koso

DiFa編集部



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