Business | 2016.03.23
ITとFashionの未来を描くイベント「Fashion Tech Summit #001」レポート

ITとFashionの未来を描くイベント「Fashion Tech Summit #001」レポート

2016年3月4日~6日の三日間、デジタルハリウッド大学 駿河台キャンパス(東京・御茶ノ水ソラシティ)にて、 ”IT×Fashion のエキシビジョン”と銘打たれた「FashionTech Summit #001」が開催されました。

このイベントはテクノロジーアートを都市へ実装する実験的カルチャーイベント「MEDIA AMBITION TOKYO 2016」の一環として開催されたもので、ファッション・デザイン・テクノロジー等、関連分野の有識者による講演やパネルディスカッション、FashionTech分野のスタートアップ各社によるピッチイベント、ブース展示のほか、5日~6日の二日間に渡って、一般公募による「FashionTechハッカソン」も行われました。

― 「FashionTech Summit #001」より メインビジュアル
― 「FashionTech Summit #001」より メインビジュアル

「未来のファッション」をハックせよ

「FashionTechハッカソン」には、一般公募のあったファッション業界関係者・ IT業界関係者・エンジニア・学生など、様々なメンバー構成による計5チームがエントリー。DiFaからは編集長の市川も審査員として参加しました。

およそ30時間という限られた作業時間の中で、どれだけのアウトプットができるのか。FashionTechに興味関心を持つ参加者は、どのような視点からファッションとテクノロジーを捉えているのか。現場の様子を確かめるべく、DiFa編集部は、最終日に行われたプレゼンテーションと授賞式にお邪魔してきました。

プレゼンテーションする会場の様子
プレゼンテーションする会場の様子

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プレゼンテーションの様子。プレゼンテーションは1チームわずか2分! アイテムのコンセプトや詳細機能を想いを込めて説明。
プレゼンテーションの様子。プレゼンテーションは1チームわずか2分! アイテムのコンセプトや詳細機能を想いを込めて説明。

前日からの作業時間が押したこともあり、少し駆け足で始まったプレゼンテーション。参加各チームによるピッチが約2分間ずつ行われ、詳しくは各テーブルに審査員が回り、二日間で実装されたプロダクトのデモを体験するという流れ。

5チームすべてのデモを体験するのは予想よりも結構な時間がかかりました。サービス自体の体験時間がチームによってバラつきがあることも理由です。

SUPER爆買い

「SUPER爆買い」というチーム名通りのプロダクトは、VRで爆買いが出来るというシンプルなもの。
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ぼっちVR

仕事や娯楽の一部を仮想世界で行うことが当たり前になった、5年後の世界を想像したプロダクト。仮想世界でのショッピングやファッションショー出演が体験できるVRコンテンツは、ヴァーチャルアイデンティティ同士のコミュニケーションも出来るというもの。
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HAMBA(ハンバ – 旅)

「未来のラグジュアリー体験」というテーマで、エアラインの中での過ごし方を提案するプロダクト。機内での拘束される時間や場所を逆利用し、VRコンテンツで上質なブランド体験が出来るというもの。
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ビギナーズハッキング

電子雑誌に掲載されているモデルが、着用しているスタイリングでランウェイを歩く様子を、ARビューワーで見られるという「Brand Marker×AR」。
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Super MashUp

「PERFUME SCANNER」というプロダクトは、香水のボトルを撮影し画像認識技術を用いて商品データベースを検索、レコメンドや、モノにまつわる学びを得られるというもの。
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以上、5チームのうち3チームがVR(ヴァーチャルリアリティ)をプロダクトベースに採用。テクノロジーサイドとして”now”なものは、やはり「Oculus Rift」、HTCの「vive」SONYの「PlayStation VR」など、ヘッドマウントディスプレイを用いた360°コンテンツやVR技術なんだなぁという印象。ハッカソンを通じてテクノロジーのトレンドにいち早く挑戦したいという、エンジニア側のモチベーションがストレートに反映された内容でした。

文脈を変える、定義を変える、見方を変える

全てのデモを体験した審査員の皆さんが別室で審査をスタート。DiFa編集部も特別に同席させていただきました。
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審査員の皆さんそれぞれ、異口同音におっしゃっていたのは「ファッションの捉え方」について。今回のハッカソンを通じて、ファッションとテクノロジー、それぞれの立ち位置から見えているものの違いはあまりに多く、「ファッション」という単語に1つの定義を求めることの難しさを、改めて感じていらっしゃいました。以下、審議中のコメントからいくつか抜粋します。

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「ファッション性って何なんだろう、と改めて考えてしまいました。」
(中里 周子さん・「NORIKONAKAZATO」ファッションデザイナー)

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「ツールは揃った、ではそれをどう使うか。ということだと思うんですよ。既存の技術で済むことを、わざわざ最新の技術で上書きする必要性はあるのかということ。VRも、以前から”セカンドライフ”のようなサービスがありましたし、仮想空間でアバターを使って「買ったものを見せ合う」という概念も既にありましたよね。アウトプットのクオリティについては、どこももう少し頑張って欲しかった。ファッションというタイトルがついてる以上、アバターとかが古臭かったりすると、やろうとしてることはわかるけどそれは全然ファッションではないという評価になってしまう。VRの「空間」をスタイリングするということも重要ですよね。そういう意味で(チーム「HAMBA」の)エアラインのファーストクラスという”場”にアプローチするというアイディアはすごくよかった。買い物だけでなく情報をコンシェルジュするということもできるので。」
(軍地 彩弓さん・『Numero TOKYO』エディトリアル・ディレクター)

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「店頭で対応しきれないことに、デジタルをかませることで付加価値が生まれるようなコミュニケーションステージまで考えられているアイディアは良かった。カメラがあって、「Pepper」のようなロボットがそこにいて、オペレーターは画面の向こうにいて接客するとかね。オンラインゲームの世界とかで先に進んでしまっているモデルってあるじゃないですか、それがファッションの世界にも入り込んでこないかなぁという期待はあるので、仮想世界や1対1のインターフェースにはすごく将来性を感じます。

僕、チーム「Super Mashup」の香水アプリには実は期待をしていたんです。定量的な世界に定性的な指標が入ることで商品の評価基準が変わる、購買基準が変わるというような話だったら面白かったと思うんですけれど、ちょっと残念。」
(北川 竜也さん・三越伊勢丹特命担当部長)

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「映像で共有したいんだったら「FaceTime」でもいいじゃないっていう。キャッチーなビジュアルをもってきたり、海外決済の仕組みまでもっていったチームはえらい。画像認識のアプリはワインなどですでにあるものなので、ファッションという分野でやるならば背景とのコントラストまで読み込める技術だと良かったですね。画像を読み込んだら、”これはデニムです””これはシャツです”みたいな。」
(関根 修二さん・BEAMS 社長室 宣伝広報統括本部)

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「ファッションが向かう先はVRショッピングではないにしても、せっかくのハッカソンなので、もう少し革新性のあるものが見たかったです。」
(市川 渚・DiFa編集長)

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「僕は、はじめて見たものもありました。VRで買ったものを見せ合う、仮想世界の中でのコミュニケーションは興味深かった。」
(小川 徹さん・NHKデジタルコンテンツセンター 副部長)

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「ビジコンなのかハッカソンなのか、という点で参加チームによっては認識に差はあったかもしれません。ハッカソンでは限られた時間の中での完成度という観点で評価しますし、アイディアベースで実装したら儲かるだろうなというイメージが沸くものはビジコン寄りですよね。私は今回、「デジタルハリウッド大学」という会場、「FashionTechハッカソン」という名前で開催したからにはアウトプットの技術力は評価すべきでないかと。」
(西垣 雄太さん・『SnSnap』CO-FOUNDER/CEO 最高経営責任者)

審査員それぞれ評価ポイントは異なるものの、なかなか厳しい意見の飛び交う審議ではありました。採点を合計すると1~3位までが僅差で並ぶ結果となり、審査側においてもFashionTechに対する視点はさまざまであったことが解ります。

運営側からのコメントとしては、今回VR技術を採用するチームが多かったのは、ハッカソン用に技術パートナー企業からの公式APIやTipsが提供されるということもあって、エンジニアの参加モチベーションポイントがそこに引っ張られてしまった印象があるそう。

テーマにおいても当初は「未来のファッション」ではなく「ショッピング体験」と告知していたそうなので、フォーカスがショッピングに寄ってしまったのも致し方ないのかもしれません。

ファッションにはファッションのトレンドがあるように、テクノロジーサイドで今すぐ試したいトレンドがVRだったというのもよく解ります。ただ、テクノロジーにおいてもファッションにおいても共通して言える、根源的な「ものづくり」の部分まで入り込んだアウトプットがひとつもなかったのは、全体を通じて残念なポイントだというコメントも多く、今回の反省点として活かされていくことを願っています。

アイディアと実装のバランスが評価された入賞作

審査結果発表では、プレゼンテーターから入賞チームそれぞれに賞金が授与され、講評がおこなわれました。

3位 「未来のラグジュアリー体験」

チーム名:HMABA(ハンバ - 旅)
チーム名:HMABA(ハンバ – 旅)

「エアラインの中でのショッピング体験というのは、実はファーストクラスからエコノミーまでとても画一的なんです。ラグジュアリーな空間設計という意味では、搭乗してから降りた先までの体験を意識したアイディアはとてもいいと思いました。これは審査員の中でも評価は分かれたのですが、ハッカソンという観点ではアウトプットの完成度も大事で、サービスが動く状態を審査員が誰も見ることが出来ていないのは少々残念でしたね。アイディアや将来性は高く評価しています。ぜひ、航空各社へプレゼンテーションに行っていただきたいなと思いますね(笑)」
(軍地 彩弓さん・『Numero TOKYO』エディトリアル・ディレクター)

実際に動くアウトプットは見られなかったものの、コンセプトからどのようなUI/UXになるのかおよその想像はつきます。そういった意味では、意外性よりも堅実性の高いアウトプットだったのかもしれません。VRありきの直接的なサービスより、あくまで体験やストーリーの中にVRを用いたサービスがある、というスタンスは大切なことだと思います。

2位 「SUPER爆買い」

チーム名:SUPER爆買い
チーム名:SUPER爆買い

「今回はハッカソンということで、実際に体験出来るところまでアイディアを実装しているかどうかが重要でした。VRがもたらす”場”の拡張性は、実は僕ら百貨店にとってはクリティカルな問題でもあるんですよね。デモを体験させて頂いて、VRを用いることで店頭で課題となっている言語の壁・空間の壁を越えていけそうな予感を二日間で見せてもらえました。大きな技術になる可能性がありますので、ぜひこれからも頑張ってください。」
(北川 竜也さん・三越伊勢丹特命担当部長)

お買い物×VR。それがファッション×ITの全てではないにせよ、フラットな視点で「一般人でもビジュアルで何となく解る」のは大事なことです。コンセプトもシステム構成も、至ってシンプルでキャッチ―。二日間で実装するというリソースも鑑みれば、とても合理的なアウトプットだったように思います。

1位 「ショッピングだけでなくファッション自体を仮想空間でたのしむVR」

チーム名:ぼっちVR
チーム名:ぼっちVR

「去年、”30年後の未来はどうなるか”という番組に携わりまして、人工知能やバーチャルリアリティーが一般的に実装されている社会のことを特集したんですが、その世界が一年たって急速に近づいてきてるかなと思いました。ヴァーチャルリアリティの中で情報を共有できる、ショッピングしたり試着したりするだけでなく、その先に新しいファッションの楽しみ方を提示してくれそうだなと感じました。おめでとうございます。」
(小川徹さん・NHK デジタルコンテンツセンター 副部長)

技術的に難易度の高いVRをこの短期間的にアウトプットしてきたこと、ファッション×コミュニケーションなど+αのフォーカスポイント、テーマとの擦り合いなど、アイディアと実装力のバランスが一番良かったところが審査員の評価を集めました。

アイディア出し、プレゼンテーション、開発まで”ぼっち”で挑んでいたのには驚きましたが、そのスタイルのせいか”没入感”がより深く実装されているようにも思います。その先にどういう世界観が現れ、VRは何を体験させてくれるのか、さまざまな示唆の垣間見えるアウトプットでした。

最後にデジタルハリウッドの杉山さんから、1位「ぼっちVR」の中ノ瀬翔さんへトロフィーが贈られ、イベントへの総評がありました。

3Dプリンターで出力された、トルソーモチーフのトロフィー。
3Dプリンターで出力された、トルソーモチーフのトロフィー。

「デジタルハリウッドという場の性格上、どうしてもテクノロジーに引っ張られていったというところはあると思いますが、ファッション×テクノロジーの分野は、まだまだこれから視点を変えて、素材自体やファッションそのものを革新する、といったところに進んでいくんだろうと思います。我々がこれまでお付き合いしてきた方々とはまた違う、異分野の方々とのネットワーキングやコミュニティが出来たことが、とてもよかったと思っています。本当にご苦労様でした。ありがとうございました。」
(デジタルハリウッド大学 杉山知之学長)

ファッションが求めるテクノロジーとは何か

今回のハッカソンでは様々な事情もあり、「VR」や「ショッピング」といった、ファッションを知らない人からも解りやすいポイントでアウトプットされたものがほとんどでした。しかしこれ、実を言うととても真理をついた結果だな、とも思ったんです。ファッションを深く知らないからこそ、縛られない発想と行動力で産み出せるプロダクトやマーケットは確実に存在するんだろうな、ということ。

FashionTechに限らず「◯◯×テクノロジー」の革新分野においては、プレイヤー相互の文化背景や価値観を理解し合う「人」ベースの障壁が、最も難問。芸術性や確実性の高いものだけを評価することがファッションの役割ではないし、エンジニアを下僕のように従えても新しい波は起きない。テクノロジーの解る人材とうまくやれない、寄せ付けない理由はそれなりにあるはずなのです。

ファッションはテクノロジーに何を求めているのでしょうか。

FashionTechってこういうことであって欲しい、とショーケースにアウトプットを並べていくのがDiFaの役目だとしたら、文化としての成熟度は違えど「ものづくり」や「拡張性」などクロスオーバーする観点から、二つの関係性をうまく伝えていけたらと思います。参加された皆様、お疲れ様でした!

Text : Miho Iizuka, Photo : Hiroaki Mizutani

DiFa編集部



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